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日本の未来は創造産業にある (日本の新しい産業 その2)  2011年3月23日  No.1209
 URLは、https://www.mori7.com/index.php?e=1209      





 製造業にもサービス業にも未来はないと言っても、当面、日本の経済は、製造業とサービス業でやっていくしかありません。

 製造業は、総体的には低賃金の新興国に追い上げられているとはいっても、まだ多くの分野で日本独自の技術が優位を保っています。また、サービス業は、日本人の細やかな感性に支えられて、多くの分野で他国のサービス業よりも優位に立っています。

 しかし、未来の大きな流れを見ると、製造業とサービス業で日本経済が発展することはもはやありません。また、観光や介護や医療や福祉にも、日本の産業の未来はありません。

 日本の未来の産業は、これまでとは異なる分野で新しく生み出す必要があります。その新しい産業を、創造産業と呼ぶことができると思います。



 江戸時代は、日本が国内だけで自給していた時代です。当時の主要な産業は農業でした。そして、その農業の生産力に支えられて、大量の武士階級が養われていました。当時の武士は、社会に新たな価値を創造することのない、悪く言えば一種の寄生階級でした。

 しかし、江戸時代の日本は、当時の世界の中で最も豊かで平和で知的水準の高い社会を作り出していました。それは、第一次作業である農業と、社会の寄生階級である武士との中間の社会に、密度の濃い多様な文化が産業として成立していたからです。この多様な文化が、江戸時代における創造産業でした。



 ここで話は原理的なことになりますが、社会の豊かさがどこから生まれるかと言えば、それは豊かな供給からではありません。

 熱帯地方では、一年中食べられる果物が実っている地域があります。しかし、そこに住んでいる人は、必ずしも豊かではありません。むしろ、食物の豊富な熱帯地方は、貧しい社会と重なっている場合がほとんどです。江戸時代の豊かさの条件のひとつに、農業生産力の発達があったことは確かですが、その農業が豊かさを生み出す主な要因だったのではありません。

 では、豊かさは需要によって生じるのかといえば、それも正確ではありません。一年中食べられるバナナが実っていて、そのバナナを食べて暮らしている人がいるというだけでは、そこにはただ静的な循環があるだけです。そのような循環は、自然界のすべての生き物についてあてはまる生活サイクルであって、人間社会の豊かさを説明することにはなりません。

 人間社会の豊かさは、人間の持つ想像力に由来しています。人間は、想像力によって、今既に存在している供給を超えた未知の需要に対して憧れや欲望を持ちます。この欲望が、静的な循環から抜け出る努力や工夫という創造的な不均衡を生み出します。この不均衡の分だけ社会は豊かになり、それがまた新たな不均衡と新たな豊かさを生み出すのです。



 例えば、毎日バナナを3本食べて満足に暮らしていた山奥の人が、ある日、海辺の人に出会い、カキという貝のおいしさを知ったとします。海辺の人は、年中カキがとれるので、やはり毎日カキを3個食べていれば満足に暮らしています。

 山の人は、これまでのバナナ3本の生活に飽き足らず、せめてカキをもう1個食べたいという欲望を持ちます。その欲望は、カキに対する憧れという想像力によって生み出されたものですから、山の人は、カキ1個のためなら、バナナ2本と交換してもいいと思います。

 一方、海の人も、いったん知ったバナナの味に対して憧れを持ちます。海の人は、バナナ1本のためなら、カキ2個と交換しても惜しくないと考えます。

 こうして山の人は2本のバナナを持って海辺へ向かい1個のカキを手に入れて満足して山に帰ります。一方、海の人は2個のカキを持って山に入り1本のバナナを手に入れてやはり満足して海に帰ります。この結果、海と山とで、それぞれカキ1個分とバナナ1本分が豊かになっていったのです。

 この豊かさは、交換や流通や分業によって生み出されたものではありません。交換や流通や分業は、豊かさが実現する形式であって、豊かさの内容ではありません。豊かさの内容は、人間が最初に抱いた欲望であって、その欲望が、需要を上回る供給を生み出すとともに供給を上回る需要を生み出すことによって、社会を現状よりも豊かに発展させる動因になっているのです。



 日本の経済の低迷は、実は先進国に共通する低迷であって、もっと言えば人類全体の低迷です。確かに地球全体で見れば、新興国や途上国に見られるように、その国の国民の欲望が新たな需要と供給を作り出す国が次々と生まれています。もっと豊かな生活をしたいから、もっと長時間働き、もっと生産や流通の方法に工夫を加え、もっと多くの需要と供給を生み出したいと願う広範な大衆がいる国では、経済は発展しているように見えます。しかし、その発展は、新しいものの発展ではなく、古いものの周回遅れの発展であって、その遅れが次々と低賃金の国に伝播していき、最後には地球全体で静かに消滅するという歴史の流れの中の、最後の仇花としての発展です。

 その最後の仇花が咲き終わったあとに、人類のゼロ成長の恒常的な安定の時代が来るとしたら、その安定の時代はあまりにも魅力のない時代ではないでしょうか。今の日本は、世界の中でいち早くそのゼロ成長の社会に突入しようとしています。日本が今の経済力のまま、社会に格差がなくなり、みんながそれぞれ自分の分に応じた生活をするという世の中になったとしても、それが果たして私たちの理想の社会だと言えるのでしょうか。

 日本は、今の新興国が目指している経済発展とは全く異なる分野で、これまでの発展の何十倍にもなる新しい発展を目指さなければらないのです。しかし、その発展を担う産業は、もちろんIT産業でも金融工学でもありません。(つづく)



※話がだんだん長くなってしまいました。作文教室とは関係ない話と思う人もいるかもしれませんが、実は最終的には作文の学習と深く結びついています。もうしばらくご辛抱ください。
 
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