カイコは、じょうぶな絹糸をとるために、昔から人間が飼育してきた昆虫です。中国では、四千年以上も前からカイコを育て、美しい絹織物が作られていました。やがて中国で作られた絹織物は、インド、ペルシア、トルコ、ローマなどに運ばれるようになりました。そのころの商人が通った道は、シルクロードとよばれています。ローマでは、絹はたいへん高価なものであり、同じ重さの金と交換されるほどでした。
カイコの飼育は、世界各国に広まっていきました。日本でも大正時代の終わりから昭和の初めにかけて、養蚕がさかんになりました。当時、カイコの品種改良が進み、それまでの二倍から三倍もの長さの糸が取れるようになったのです。また、自然の状態では、カイコが生まれてくるのは春と夏の年二回ですが、季節を問わず何度でもカイコを飼育することができるようになりました。そのころ、生糸や絹織物の輸出は、日本の輸出総額の半分近くを占めていました。
生まれてきたカイコの成虫、カイコガは、羽が小さいわりに腹が大きくて、筋肉も弱いため飛ぶことができません。人間に飼われているカイコガは、野外を飛びまわって仲間を見つける必要もなく、幼虫の食べ物であるクワの木をさがしてたまごを生む必要もありません。メスは、クワの木でなくても、手近なものに何でもたまごを産みつけます。まるで、人間がちゃんと幼虫の世話をしてくれることを知っているようです。飛ぶ必要がなくなったカイコガは、飛ぶ能力を失ってしまったのです。
生まれた幼虫は、クワの葉を食べてどんどん大きくなります。カイコを育てているカイコ棚では、幼虫がバリバリとクワの葉を食べる音が、一日中雨の音のように聞こえます。これほど食欲旺盛な幼虫ですが、歩く力がたいへん弱く、三十センチでもクワ
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