吾一はそとへ 読解検定長文 小4 夏 1番
吾一はそとへ遊びに行きたかったが、あいにく、おっかさんもいないので、買ってきたものを、 置きっぱなしにして行くわけにはいかなかった。こんなにしていると、 焼きイモがつめたくなってしまう。 彼はさめないようにと思って、 袋のままふところに入れて、あっためていた。しかし、おとっつぁんも、おっかさんも、なかなか帰ってこなかった。
と、えりとえりの合わせ目から、なんともいえない 香ばしいにおいが、ほど合いのあったかさを持って、ぽうっとのぼってくる。 吾一は大いに 誘惑を感じたが、思いきって、両方のえりをぴしんとかき合わせて、顔を横のほうに向けていた。それでも、あごの下のほうから、 香ばしいにおいがあがってきたが、 彼は目をつぶって、がまんをしていた。すると、今度は 焼きイモのぬくもりで、おなかがだんだんあったかくなってきた。あったかになってくると、 腹がときどきガマのように、グーと、うなりだした。
そのころ、 吾一はおやつをたべていなかったから、わけても 腹がすいていた。お小づかいをもらわないわけではないけれども、小づかいはなるたけ 貯金するようにと、学校の先生から言われて 以来、それを実行しているのである。しかし、三時ごろになると、毎日おなかがすいてたまらなかった。けれども、そこを 我慢して、小づかいをつかわないようにしなくてはいけないのだと思って、こらえているのである。しかも、これをたべたところで、 貯金は少しもへるわけではない。あごの下からは、 あい変わらず 香ばしいにおいが鼻を 突いてきた。 焼きイモのにおいというものは、 特別、鼻を 刺激する。
「おだちんに、一つぐらい、いいだろう。」
とうとう、こらえられなくなって、 吾一は 袋の中に手を 突っこんだ。
きょうのは丸やきなので、わけてもうまかった。 彼は 夢中で一つたいらげてしまった。一つたべると、前よりかえって 食欲が 増してくる。と、ひとりでに手がふところの中にはいって、また一つ取∵り出した。さっきの 焼きイモ屋での 不愉快なことなんか、もうすっかり 忘れてしまっていた。
そして、一つ、二つとたべているうちに、一 銭ぐらいの 焼きイモは、いつのまにかなくなって、ふところの中は、新聞がみの 袋だけになってしまった。
ぺしゃんこになっている 袋が、指のさきにさわった時、 吾一は言いようのない 寂しさにおそわれた。 彼は 泣きだしたいような気もちになった。そして、ふところの新聞がみの 袋を引っぱり出して、はしのほうを、わけもなく、ちぎっていた。
(山本有三 「 路傍の石」)
煙突の上のほうが、 読解検定長文 小4 夏 2番
煙突の上のほうが、ぜんぶ 燃えあがっていました。 芯にしてあった 棒が 燃えているのです。つよい風にあおられた 炎が、いまにも屋根にうつりそうに長い 舌をのばしていました。かあさんは、長い 棒をひっつかむと、ゴーゴーと 燃えあがる火をむちゅうでたたきつづけ、 炎をあげている木ぎれが、かあさんのまわりにどんどんおちていきました。
ローラはどうしていいかわかりませんでした。自分も 棒をひっつかみましたが、かあさんにそばへよってはいけないととめられました。火は、ものすごいいきおいで、ゴーゴー音をたてて 燃えています。いまにも家が 燃えつくすかもしれないのに、ローラにはどうすることもできないのです。
ローラは家にかけこんでいきました。 燃えている木や石炭が、 煙突からおちてきて、 炉辺にころがりでています。家のなかはけむりでいっぱいでした。まっかに 焼けた大きな木ぎれが、 床にころがりでてきました。メアリイのスカートのすぐそばです。メアリイは動くこともできません。すっかりおびえきっているのです。
ローラは、考えるひまもないほど、こわさでいっぱいでした。いきなり重いゆり 椅子の 背をひっつかむと、力のかぎりひっぱりました。 椅子は、メアリイとキャリーをのせたまま、 床をすべるようにあとへさがりました。ローラが、 燃えている木ぎれをひっつかんで 暖炉にほうりこむのと同時に、かあさんが家へはいってきました。
「えらい、えらい、ローラ。火のついたものが 床におちたとき、ほっといてはいけないといったのをよくおぼえていて」
かあさんはそういうと、バケツをとって、手早く、でも 静かに、 暖炉の火に水をかけました。 水蒸気がもうもうとあがります。
「手にやけどをした?」かあさんはローラの手をしらべましたが、ローラは 燃えている木ぎれをおおいそぎで投げこんだので、やけどはしていませんでした。
ローラは、もう大きいから 泣いたりはしないので、ほんとに 泣いているわけではありませんでした。ただ、両ほうの目からひとつぶ∵ずつ 涙がこぼれ、のどがきゅっとつまっているだけで、それは 泣いているのとはちがいます。ローラはかあさんにしがみついて、ぴったり顔をくっつけてかくしてしまいました。かあさんが、火事でけがをしなかったのが、ローラはうれしくてたまらないのです。
「 泣かないのよ、ローラ」かあさんはローラの頭をなでながらいいます。「こわかったかい?」
「ええ」ローラはいいます。「メアリイとキャリーが 焼けちまうんじゃないかと思ってこわかったの。家が 焼けてしまって、住む所がなくなるんじゃないかと思って。あたしーあたし、いまのほうがこわい」
メアリイもやっと口がきけるようになっていました。そして、かあさんに、ローラが 椅子をひっぱって、火が 燃えうつらないようにしたのだと話しました。ローラはまだ小さく、メアリイとキャリーがすわったままでは、ただでさえ大きくて重い 椅子がどんなに重かったろうにと、かあさんはびっくりしました。いったいどうやってローラがそれを動かせたのか、 信じられないとかあさんはいいます。
「ローラ、おまえはとても 勇気があったんだね」かあさんはいいました。でも、ローラは、ほんとうは、とてもこわかったのです。
(ローラ・インガルス・ワイルダー「大草原の小さな家」)
まず尚行が 読解検定長文 小4 夏 3番
まず 尚行がピッチャーになり、真一がバッターボックスに入った。キャッチャーは、 高志、 史郎たちが後ろをまもった。
「しっかり打ってくれよ。じゃないと、たいくつしちゃうからな」
史郎が大きな声で言った。真一はむねがどきどきだ。なんとかうまく打って、 史郎をびっくりさせてやりたいと思った。
尚行は、スローボールを投げた。だが、真一がふりまわすバットは、ぜんぜんタイミングが合わない。
「もっと前にきてよ」と、真一は注文をつけた。
ピッチャーは、さっきよりもっと注意深く、下手からゆるやかにほうった。するとバットは、ボールをかすめて、からぶりした。
「いいぞ、もうちょい!」
だれかが声をかけた。真一は、 背中がぞくぞくっとした。つぎにふったバットで、ボールは、てんてんと前にころがった。
「やったあ」と、真一はさけび、バットをほうりだして車いすをこいだ。 史郎がグローブにボールをおさめて、ゆっくりとホームに返球した。キャッチャーが、がっちりつかんで「アウトー!」と、さけんだ。
真一は、やっと一るいに 達しただけだったが、またからだがぞくぞくっとした。
こんどは、真一は 守備にまわった。グローブをはめて、かまえてはみたものの、とても打球をとるのはむりだとわかった。だから魚あみ 専門にした。
真一のところにとんでくる球は、車いすにぶつかってはねかえる。すると、車いすがさっと近づいて、あみでボールをすくいとる。まるでバッタでも追いかけているようだ。みんなは、それがおかしくて 笑った。
ひとときがたって、みんな引きあげることになった。真一の新しいユニフォームには、すこし土のよごれがついた。真一は、とても 満足していた。何といっても友だちといっしょにやる野球は、親子ふたりの野球とはぜんぜんちがったべつの 満足感があった。 尚行や 史郎たちのほうも、いつもの野球とはちょっとちがう感じだった。でもこれはこれでおもしろいと思った。
家に帰ると、洋子がおやつを用意してまちかまえていた。テーブ∵ルには、クッキーやチョコレート 菓子がならび、ガラス皿にくだものがもられている。みんなは、はじめ目を見合わせて、悪いからとえんりょしようとした。
「なに言ってるの、せっかく用意したのに食べてくれなくちゃ、おばさん悲しいわよ」
「じゃあ、いただきまーす」
洋子は、みんなのコップにジュースをつぎながら、
「どうもありがとうね、きょうのシンちゃん、ピカピカかがやいているわ」と言った。
「ぼく、大きいの打ったんだからね」と、真一はじまんげに言った。
「おばさん、ほんとにシンちゃんうまいんだよ」
尚行が言うと、 史郎もクッキーを口にほおばりながら、
「ほんとだよ、ぼくもびっくりしちゃった。車いすで野球ができるなんてすげえや」
と言った。真一は、自分 専用の白いカップに顔を近づけて、ふとい曲がったストローでうまそうにジュースを飲んだ。
(山県 喬「 声援がきこえる」)
授業参観日だといって、 読解検定長文 小4 夏 4番
授業参観日だといって、こんなにきんちょうしたことは、いままでになかった。 亜紀は、国語の教科書をつくえの上にだして、大きく 深呼吸した。それから、ちらりとうしろをふりかえった。
教室のうしろには、もう五、六人のお母さんたちがたっていた。
(あ、エミーのパパだ)
ちょうど、うしろのドアからはいってきた 背の高い男の人が、絵美のパパだった、 亜紀は、この日のために国語の 特訓につきあって、なんどか絵美の家へいっていたので、すぐにわかった。
きょうの 授業は、絵美がこのまま 桜本小学校にのこるか、アメリカンスクールへいかなければならないかがきまるだいじな 授業だ。
(どうか、エミーのパパのまえで、 特訓の 成果がでますように)
と、 亜紀はいのるような気もちだった。
『ことわざと生活』のところは、声をだして何回よんだだろう。きのうは、 亜紀も声がかれるくらい、絵美といっしょに練習した。ことわざも、たくさんおぼえた。
亜紀は、絵美が気になって、なんどもふりかえってみた。絵美は、しんけんな顔つきで教科書をひらいていた。あまり 亜紀がうしろをむくのでいつのまにかきていた 亜紀のママが、黒板をさして、「まえをむいていなさい」というしぐさをした。
教室のうしろが、お父さんやお母さんでいっぱいになったころ、パリッとした 背広をきた先生が入ってきた。
「えー、きょうは、十三ページの『ことわざと生活』を勉強します。みんな、どんなことわざを知っているかな?」
いつもは、わかっていても手をあげない人がおおいのに、 授業参観の日は、みんながいっせいに手をあげる。 亜紀も手をあげた。それから、もういちど、絵美をふりかえると、絵美もまっすぐに手をあげていた。
何人かが、知っていることわざを発表したあと、先生は、
「そうだね、それでは、教科書をよんでみようか」
と、教室をみまわした。
「中山さん、よんでみて」∵
まず、 亜紀があてられ、それから、くぎりのよいところできりながら、六人が 順番によみすすめた。そして、やっと、
「それでは、つぎは、高田さん」
と、絵美の名まえがよばれた。
「はい」
絵美は、はっきりとへんじをしてたった。そして、大きな声でゆっくりと教科書をよんでいった。はじめは、少し声がふるえた。
亜紀は、自分のときよりハラハラして、教科書の文字を目でおった。
「ですから、ことわざは……」
絵美の声がつまった。
「ことわざは……」
亜紀は心の中で、
「ニチジョウ、ニチジョウ!」
と、漢字のよみかたをさけんでいた。絵美が、ちょっと考えて、
「 日常の生活のなかに……」
と、つづけたときは、ほっとした。
( 松浦とも子「ライバルは転校生」)
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