ゲストさん ログイン ログアウト 登録
 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 3678番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/4/18
知識を記憶する必要はなくなるが、記憶力を育てることはますます必要になる――岡潔の文章を読んで as/3678.html
森川林 2019/04/11 16:50 

 昔は、「生き字引」とか「歩く辞書」とかいう言葉は、人を褒める言葉でした。
 しかし、今は、「辞書のような人間にはなるな」と、全く逆のことが言われます。

 これからは、従来の勉強のように記憶した知識を再現するような勉強は必要なくなってきます。
 スマホを使ってインターネットで調べればすぐにわかることを、テストのために一夜漬けで記憶するということの空しさを、多くの中高生は感じています。
 知識を詰め込むようなことは、今後ますます必要なくなってくるのです。

 しかし、ここで考えなければならないことがあります。
 例えば、交通機関が発達したから、もう歩く必要もなくなると言って、足を退化させてしまったとしたら、それは足の退化だけにとどまるのではなく、人間の全体的な生きる力もそこで退化していくはずです。

 記憶力も同様です。
 知識を記憶する必要がなくなってきたからと言って、記憶力を使わなくなっていくと、それは記憶力の退化にとどまらず、人間の総合的な学力もまた退化していくのです。

 典型的な似た例が、論文を自分で書かずに、コピペで済ませてしまう学生です。
 手軽にコピーできる時代になったから、自分で考えて書く力はもう必要なくなったのだとは言えません。
 たとえ下手でも、自分で書く力をつけておくことが、その人の学力になるのであり、それを成長させることが人間の向上になるからです。

 岡潔さんが、「一葉舟」という本の中で、次のように書いていました。

====
 いまの教育で一番欠けているものとして、目につきますものは、むしろ意志教育です。

  意志の教育が欠けるということは、意志を使わさない、ということです。たとえば、以前は習ったものは覚えようというのが原則でした。このごろは記憶しなくてもよいということになっている。ところが記憶しようと思いますと、非常に意志的努力がいるのです。あの意志的努力は重ねていますとある時期──だいたい中学二、三年になれば、精神統一力になるのです。精神統一というのは意志力の現われなのです。

  記憶には、二種類ありまして、小学校へはいる一年前から小学校一、二年ごろは非常にある意味で記憶がよい。このころの記憶力は、無努力の記憶です。だから意志的努力はしないのです。その後また小学校五、六年ごろから、第二の記憶力が伸びてきます。この記憶は意志的努力を欠いては覚えられないのです。

  クリエーションの働きは、前頭葉で精神統一下において行なわれるので、心を散らしたままするんじゃありません。だから意志教育が欠けておれば、それができんわけです。」

(『一葉舟 (角川ソフィア文庫)』(岡 潔 著)より)
====

 言葉の森で行っている暗唱も、小学一、二年生の子は、どんなに難しい文章でもすぐに暗唱できるようになります。
 だから、この時期は、暗唱の勉強を家庭学習の中に組み入れていくのに最適な時期です。
 暗唱の習慣がつくと、語彙力が増え、読む力もつき、将来の書く力も育ちます。
 そして、何よりも覚えることが苦にならなくなり、それどころか逆に覚えることが楽しくなってくるのです。

 しかし、小学校三、四年生から暗唱を始めると、暗唱を難しく感じる子が多くなります。
 それは、覚える力が減退したからではなく、理屈で理解する力が増してきたために、覚えることも理解を媒介にして覚えようとするからです。
 その方法のひとつが、語呂合わせです。
 語呂合わせは、もちろん元素記号を覚えるような少量の記憶を確実に定着させることにはきわめて有効です。
 しかし、長い文章を丸ごと暗唱するには、繰り返し音読して暗唱力を付ける方法しかないのです。

 この暗唱力をつけることは、ただの暗唱力にとどまらず、意志力を育て、それが精神統一力と創造力に結びつくことは、岡潔さんの言うとおりだと思います。

 今はまだ、教育に携わる人の多くが、この暗唱力の大切さに気づいていません。
 入試も含めて、暗唱を評価するような仕組みは、ほとんどどこにもありません。
 せいぜい、学校で百人一首大会をするぐらいです。
 その百人一首も、カルタ競技のようなわけのわからない方向に進みがちです。

 だから、言葉の森が、日本語で書かれた内容的にも表現的にも優れた文章を選んで暗唱文集を作り、暗唱検定を行うようにしたのです。

 いつかまた、齋藤孝さんあたりが真似をして、暗唱の本を書くようになると思いますが、大事なことは表面的な暗唱の形ではなく、人間の内面における暗唱の教育的な意味なのです。

 昔は、「生き字引」とか「歩く辞書」とかいう言葉は、人を褒める言葉でした。
 しかし、今は、「辞書のような人間にはなるな」と、全く逆のことが言われます。

 これからは、従来の勉強のように記憶した知識を再現するような勉強は必要なくなってきます。
 スマホを使ってインターネットで調べればすぐにわかることを、テストのために一夜漬けで記憶するということの空しさを、多くの中高生は感じています。
 知識を詰め込むようなことは、今後ますます必要なくなってくるのです。

 しかし、ここで考えなければならないことがあります。
 例えば、交通機関が発達したから、もう歩く必要もなくなると言って、足を退化させてしまったとしたら、それは足の退化だけにとどまるのではなく、人間の全体的な生きる力もそこで退化していくはずです。

 記憶力も同様です。
 知識を記憶する必要がなくなってきたからと言って、記憶力を使わなくなっていくと、それは記憶力の退化にとどまらず、人間の総合的な学力もまた退化していくのです。

 典型的な似た例が、論文を自分で書かずに、コピペで済ませてしまう学生です。
 手軽にコピーできる時代になったから、自分で考えて書く力はもう必要なくなったのだとは言えません。
 たとえ下手でも、自分で書く力をつけておくことが、その人の学力になるのであり、それを成長させることが人間の向上になるからです。

 岡潔さんが、「一葉舟」という本の中で、次のように書いていました。

====
 いまの教育で一番欠けているものとして、目につきますものは、むしろ意志教育です。

  意志の教育が欠けるということは、意志を使わさない、ということです。たとえば、以前は習ったものは覚えようというのが原則でした。このごろは記憶しなくてもよいということになっている。ところが記憶しようと思いますと、非常に意志的努力がいるのです。あの意志的努力は重ねていますとある時期──だいたい中学二、三年になれば、精神統一力になるのです。精神統一というのは意志力の現われなのです。

  記憶には、二種類ありまして、小学校へはいる一年前から小学校一、二年ごろは非常にある意味で記憶がよい。このころの記憶力は、無努力の記憶です。だから意志的努力はしないのです。その後また小学校五、六年ごろから、第二の記憶力が伸びてきます。この記憶は意志的努力を欠いては覚えられないのです。

  クリエーションの働きは、前頭葉で精神統一下において行なわれるので、心を散らしたままするんじゃありません。だから意志教育が欠けておれば、それができんわけです。」

(『一葉舟 (角川ソフィア文庫)』(岡 潔 著)より)
====

 言葉の森で行っている暗唱も、小学一、二年生の子は、どんなに難しい文章でもすぐに暗唱できるようになります。
 だから、この時期は、暗唱の勉強を家庭学習の中に組み入れていくのに最適な時期です。
 暗唱の習慣がつくと、語彙力が増え、読む力もつき、将来の書く力も育ちます。
 そして、何よりも覚えることが苦にならなくなり、それどころか逆に覚えることが楽しくなってくるのです。

 しかし、小学校三、四年生から暗唱を始めると、暗唱を難しく感じる子が多くなります。
 それは、覚える力が減退したからではなく、理屈で理解する力が増してきたために、覚えることも理解を媒介にして覚えようとするからです。
 その方法のひとつが、語呂合わせです。
 語呂合わせは、もちろん元素記号を覚えるような少量の記憶を確実に定着させることにはきわめて有効です。
 しかし、長い文章を丸ごと暗唱するには、繰り返し音読して暗唱力を付ける方法しかないのです。

 この暗唱力をつけることは、ただの暗唱力にとどまらず、意志力を育て、それが精神統一力と創造力に結びつくことは、岡潔さんの言うとおりだと思います。

 今はまだ、教育に携わる人の多くが、この暗唱力の大切さに気づいていません。
 入試も含めて、暗唱を評価するような仕組みは、ほとんどどこにもありません。
 せいぜい、学校で百人一首大会をするぐらいです。
 その百人一首も、カルタ競技のようなわけのわからない方向に進みがちです。

 だから、言葉の森が、日本語で書かれた内容的にも表現的にも優れた文章を選んで暗唱文集を作り、暗唱検定を行うようにしたのです。

 いつかまた、齋藤孝さんあたりが真似をして、暗唱の本を書くようになると思いますが、大事なことは表面的な暗唱の形ではなく、人間の内面における暗唱の教育的な意味なのです。


 対話と個別指導のあるオンライン少人数クラスの作文教室
小1から作文力を上達させれば、これからの入試は有利になる。
志望校別の対応ができる受験作文。作文の専科教育で40年の実績。

コメント欄

森川林 2019年4月11日 17時3分  
 スマホで何でも調べられる時代には、もう覚えることは必要なくなっていきます。
 しかし、それは覚える力が必要なくなるということではありません。
 覚えることと、覚える力は、別のものです。
 覚えることは、生活の分野の話です。それは必要なくなっていいのです。
 覚える力は、教育の分野の話です。それは、子供を成長させるためにますます必要になってくるのです。


nane 2019年4月11日 17時15分  
 暗唱は、やったことのある人は、それがとてもいいことだとわかっています。
 しかし、やったことのない人は、いくら説明されてもそれがそれほどいいことだとは思いません。
 ちょうど、かけ算の九九を、日本人ならほとんどの人がいいことだと思っていても、アメリカ人はいくら説明されてもそれがそれほどいいことだとは思えないのと同じです。
 だから、大事なことは、小学1年生の子にまず暗唱をさせてみることです(幼長から小2でもいいです)。
 しかし、役に立つものを暗唱させようと思わないことです。


コメントフォーム
知識を記憶する必要はなくなるが、記憶力を育てることはますます必要になる――岡潔の文章を読んで 森川林 20190411 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
せそたち (スパム投稿を防ぐために五十音表の「せそたち」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
暗唱(121) 
コメント1~10件
国語読解問題の 森川林
 あるとき、高3の元生徒から、「国語の成績が悪いのでどうした 3/28
今日は読書3冊 森川林
苫米地さんの「日本転生」は必読書。 3/25
共感力とは何か 森川林
言葉の森のライバルというのはない。 森林プロジェクトで 3/23
3月保護者懇談 森川林
 いろいろ盛りだくさんの内容ですが、いちばんのポイントは、中 3/22
中学生、高校生 森川林
 意見文の書き方で、もうひとつあった。  それは、複数の意 3/14
【合格速報】栃 森川林
 おめでとう!  受験勉強中も、硬い説明文の本をばりばり読 3/13
受験作文と入試 森川林
将来の作文入試は、デジタル入力になり、AIで自動採点するよう 3/13
大学入試が終わ 森川林
大学生になっていちばん大事なことは学問に志すこと。 18歳 3/12
【合格速報】東 森川林
 T君、いつも椅子に腹ばいになってずっと本を読んでいたものね 3/11
1月の森リン大 森川林
 小1から高3までの作文が並ぶと、学年に応じて、みんなの考え 3/11
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
日本復活の道筋 森川林
 工業製品を経済発展の原動力をした資本主義は終わりつつある。 4/17
メモ 森川林
https://www.mori7.com/za2024a0 4/16
単なる作業 森川林
勝海舟は、辞書を買うお金がなかったので、ある人から夜中だけ辞 4/8
勉強は、人に教 森川林
勉強は、人に教えてもらうのではなく、 自分で学べばよい。 4/7
タイマー勉強法 森川林
 勉強も、家事も、仕事も、やらなければならない細かいことがた 4/2
人間の役割 森川林
うちの子が1歳か2際のとき、 車で30分ほどの三浦海岸につ 4/2
舞岡のシラサギ 森川林
舞岡八幡宮に行ったら、帰りにシラサギがいた。 3/29
身体や物理的現 森川林
身体や物理的現実は、時間や空間に限定されているが、意識はそれ 3/29
メジロとか、ヒ 森川林
メジロとか、ヒヨドリとか、スズメとか、ヤマバトとかが、毎日わ 3/28
批判と創造 森川林
人を批判することはたやすい。 大事なことは、批判ではなく創 3/27

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習