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読解検定
 難しい文章を読み取る力をつける
 ドルくんの 読解検定  編集
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題名:★ここの主人は
 そこでふと谷の方角を見ると、そちらは壁(かべ)になっていた。それだけなら特に不思議はないのだが、そこには昔窓があったらしいのを、割合近ごろになって塗りつぶし(ぬ    )たように思えた。そうだとすればこの小屋の内部が薄暗い(うすぐら )のも、あながち外の日光が強いばかりではない。 

  「あそこに窓があれば明るいだけでなく、谷間の景色が見られるのに、それにしてもなぜ。」 

   そんな事を考えていると、主人が再び姿を現した。主人は口元で笑いながら、彼(かれ)を見つめたまま、 

  「何年になるかな、そう八年ぶりだ、八年ぶりではじめて人間に会ったのだ。まあお急ぎでなければ今晩は泊まっ(と  )て明日お出掛け(でか )なさい。一番近い人里まで丸二日もかかるのだから。しかし八年も人を見なかったとは。」 

   そういって男は何がおかしいのか、大声を出して笑った。それが非常にたのしそうなので、彼(かれ)も声をあげて笑った。ああこの人は世捨て人なのだな、そう思えば、品のいいこの男の態度も、清らかな生活も納得がゆくようであった。それでこの男の知らないであろうこの数年の出来事を色々と話してやった。主人は話の内容よりも、元気な青年を見ながら、人の言葉を聞くのが楽しくてたまらないのだという風に笑いながら、フンフンとうなずいていた。帰省して帰ってきた息子に対する父親のようである。話が一段落すると、 

  「ところであなたは将来何をおやりになるのかな。」 

  「私は絵を学ぼうと思います。」 

  「何、絵を。」 

   突然(とつぜん)老人の表情は変わった。今までの行いすました好々爺(こうこうや)の隠者(いんじゃ)の顔は一瞬(いっしゅん)にして物怖じ(ものお )した醜い(みにく )老人の顔になった。急に皺(しわ)と白い毛がふえたかと思われる。彼(かれ)は何か悪い事を言ったのかと思ったが、訳がわからないままに口を閉じた。しばらくの間沈黙(ちんもく)が二人の間に流れた。今更(いまさら)のように渓流(けいりゅう)の音が部屋の中にひびいた。やがて老人の顔が平静をとりもどしたので、彼(かれ)は、 

  「私が何か悪い事を申し上げたのでしょうか。」

  「いや御(ご)心配なく。」 

   しかしそれ以後は、彼(かれ)はようやくこの老人なり小屋なりが得体が知れなく思えてきたので、話も渋り(しぶ )がちになった。それに反して、老人は急に能弁になって、この辺の川魚のよい事や、近くの山で春になると採れる蕨(わらび)の味のよい事や、秋になると朝から晩まで一冬分の薪(たきぎ)を集めねばならぬ事を話し出した。しかしその間にも折々老人の顔を恐怖(きょうふ)とも焦燥(しょうそう)ともつかぬ影(かげ)が走った。又(また)一方彼(かれ)の心は次第に疑問の雲が濃く(こ )なっていった。そしてついには話がとぎれて、二人はその沈黙(ちんもく)の中でいらだった顔を見せて睨みあっ(にら   )てしまった。やがて老人はそのいらだった顔の奥(おく)から渋い(しぶ )笑いをしぼり出して、 

  「駄目(だめ)ですな、やっぱり。実ははじめてお見かけした時からもしやと思って、しばらく見ていたのですが。あなたがあの谷を眺め(なが )ている後ろ姿に、昔の私の姿を見たように思いました。私もあなたの年ごろにこの谷を発見して、この谷を絵絹に表そうとしたのです。ところが駄目(だめ)なのです。無才といえばそれまでですが。私の描く(えが )画(え)はみな人臭く(ひとくさ )て、あなたがさきほど御覧(ごらん)になった山水の明るい厳しさは、どうしても絹に出てこないのです。この山水は生命を入れる余地のないほど鋭い(するど )ものですのに、私の絵は木を担った樵夫(きこり)、糸を垂れている漁人(いさりびと)、岩山に酒を飲んでいる隠士(いんし)がいても邪魔(じゃま)にならないどころか、それのある方が一層、自然なような絵なのです。先ほども大笑いしましたが、この前に人に会ってから八年、はじめてこの山に入って三十年になります。妙(みょう)なものでこの谷川の音の聞こえない所まで行くと何か忘れ物をしたように思われるのです。もう最近では、この谷を離れる(はな  )事ができないだけに、見るのもいやになってきました。あの壁(かべ)も元は窓でしたが、最近塗りつぶし(ぬ    )てしまいました。窓があったころは、ここからの眺め(なが )は全くすばらしいものでしたけれど。」 

   主人はそういって、まるで壁(かべ)を透かし(す  )てそとの山河を見ているように目を細めた。その顔は鋭く(するど )淋しかっ(さび   )た。その庵室(あんしつ)に一泊(いっぱく)した彼(かれ)は、何か画に描く(えが )ことに恐怖(きょうふ)と不安を感じながら、老人の教えてくれた道をたどって人里へ出た。 (三浦(みうら)朱門(しゅもん)「冥府(めいふ)山水図」)

問3 読解マラソン集2番「ここの主人は」の長文を読んで、○と×の組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。
A 主人は三十年前、このあたりの景色を絵に描こうと住み着いた。
B 窓をつぶしてから、主人は心の目で自然を見ることができるようになった。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答選択:

問4 読解マラソン集2番「ここの主人は」の長文を読んで、○と×の組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。
A 主人は、彼がかつての自分のようにこの谷の絵を描くために、住み着くのではないかと思っている。
B 主人が「駄目ですな。やっぱり」と言ったのは、自分の無理な能弁が続かないと思ったからである。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答選択: