未ログイン ログイン
読解検定
 難しい文章を読み取る力をつける
 ドルくんの 読解検定  編集
※最初にログインをしてください。言葉の森の団体コードは、aaa001です。
※番号を選択し「確認」ボタンを押して送信してください。

題名:○第二に、通常の人間の
 第二に、通常の人間の生理的条件が同じだとして、つまり共通の感官に束縛(そくばく)されているとして、その共通性のゆえに、すべての事実は、すべての人間にとって共通であろうか。明らかに、そうではない。健全な視覚を備えた二人の人間がいたとして、その眼前にプロジェクターを通して一枚のスライドが写されている。そのスライドには、美しい紋様(もんよう)が現われている。一方の人間はヴェテラン()の医師であり、彼(かれ)は、その紋様(もんよう)を、恐ろしい(おそ   )ペスト菌(きん)と見ている。もう一方の人間は、顕微鏡(けんびきょう)や染色技術にはまったくうとい人物で、スクリーン上の紋様(もんよう)を、超(ちょう)現代派の絵画の一種と見ている。この二人の視覚、網膜(もうまく)上の昂奮(こうふん)の状態はあるいはほとんど完全に同じであるかもしれない。しかし、この二人にとって、眼前の「事実」は、明らかに違っ(ちが )ている。

  (中略)

   こうして、「事実」は、それを受け取る人間の置かれた「内的状態」すなわち「知識」と、「外的状態」すなわち「コンテクスト」とに依存(いぞん)する。このことは、観察ということが、単に、ある人間の網膜(もうまく)にある刺激(しげき)が与え(あた )られて昂奮(こうふん)が起こった、ということを意味するものとして捉え(とら )られるべきではなく、端的(たんてき)にその人間の総体としてしか捉え(とら )られない、ということをはっきり示している。

   第三には、言語のもつ束縛(そくばく)がある。「事実」は、観察されただけでは、まだ私的体験である。それは、何らかの伝達手段を使って言表されなければならない。その最も精妙(せいみょう)な手段が言語であることは言を俟(ま)たない。しかしその伝達手段は、逆に「事実」そのものに鋳型(いがた)を与え(あた )、規制し、束縛(そくばく)することも認めねばなるまい。

   よく知られている事実だが、語彙(ごい)の少ないことで著名なイヌイットには、雪の状態に関して、われわれよりはるかに多くの表現があって、われわれには区別がつかないような微妙(びみょう)な差異を言い表わすことができる。そうしたことばをもったイヌイットとわれわれの間に起こる、雪についての「事実」の相違(そうい)は、おのずから明らかであろう。

   このように考えてくると、「事実」というものは、幾重にも(いくえ  )、さまざまな枠組み(わくぐ )によって束縛(そくばく)されていることがわかるであろう。

   多少結論めいた言い方をすれば、「事実」とは「事実」の世界への可能性として存在する「自然」から、人間が、さまざまな枠組み(わくぐ )、型、鋳型(いがた)をあてがうことによって選びとり、可能的多様体を現実的単様体へと収歛()させることによって造り出されるものである。「事実」とは、そうしたやり方で選びとられたものであり、選びとるための枠組み(わくぐ )、鋳型(いがた)に従って、変化するのである。

   この結論は別段目新しいものではなく、デュナミスとエネルゲイアを区別したアリストテレスの昔から、繰り返し(く かえ )繰り返し(く かえ )、いろいろな形で語られてきた哲学(てつがく)的態度である。それをあらためてここで確認した理由は、自然科学が「客観的」で、それ以外には「自然との関わり合い方」があり得ない、という反論に対する再反論の根拠(こんきょ)をそこに見出したかったからにほかならない。

   つまり、近代自然科学というのは、上に述べた意味で、一つの枠組み(わくぐ )、一つの鋳型(いがた)であって、われわれは、そうした枠組み(わくぐ )、鋳型(いがた)を使って、可能的多様体としての自然から、一つの「事実」の世界を選びとり、構築し、それを「現実」の世界として、その上に「自然科学的世界像」を打ち建てているのである。

 

  (村上陽一郎(よういちろう)『西欧(せいおう)近代科学(新版)』による)

問1 読解マラソン集1番「第二に、通常の人間の」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。
A 「事実」を観察するということは、その人間の私的体験であり、総体的な捉え方とは言えない。
B 「事実」を伝達するための言語は、「事実」を束縛してしまうことも否めない。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答選択:

問2 読解マラソン集1番「第二に、通常の人間の」を読んで次の問題に答えましょう。
 ○と×との組み合わせが合っているものの数字を書きなさい。
A 「事実」とは、自然とは別に人間が想像によって作り出すものである。
B 「自然科学的世界像」は、自然から「事実」を選び、構築したものを「現実」の世界として打ち立てているものである。
1 A○ B○   2 A○ B×   3 A× B○   4 A× B×

解答選択: