未ログイン ログイン
記述の森の記述検定
★10月の問題だけができるようになっています。
 読む力、書く力、考える力を育てる
 記述の森の記述検定  編集
※最初にログインをしてください。言葉の森の団体コードは、aaa001です。
※解答欄への入力は、音声でもテキストでもどちらでもできます。

題名:○陰謀理論とは
 【1】陰謀(いんぼう)理論とは、社会的現象はそれをひきおこそうとたくらんだ個人もしくは集団の陰謀(いんぼう)から生じてくると主張する理論である。したがって、この理論にとっては陰謀(いんぼう)家を探し出すことが主たる課題となる。【2】たとえば、戦争、不況(ふきょう)、失業といった社会的現象は大企業(きぎょう)とか帝国(ていこく)主義的戦争屋はたまたシオンの長老たちの陰謀(いんぼう)の結果であるという。【3】悪の帝国(ていこく)による世界制覇(せいは)の野望とそれに対して果敢(かかん)に闘う(たたか )主人公といった少年マンガのレベルにおいてのみならず、大の大人にとっても、CIAの謀略(ぼうりゃく)とかフリーメイスンの陰謀(いんぼう)といったことで複雑な出来事が簡単に絵解きされるのは、耳に心地よいらしい。
 【4】陰謀(いんぼう)理論に対するポパーの批判はきわめて簡単である。つまり、われわれの社会において陰謀(いんぼう)がそのまま成功することはほとんどないという事実が陰謀(いんぼう)理論を反駁(はんばく)しているというのである。この点については少しばかり、説明が必要かもしれない。【5】われわれの社会では、意図と結果が大きく相違(そうい)するのはむしろ当然である。行為(こうい)は意図されなかった帰結や反発を引き起こす。それらは、当初の意図に跳ね返り(は かえ )、その修正を迫る(せま )ことになるだろう。とすれば、陰謀(いんぼう)がそのまま実現することはありそうにないことである。【6】しかし、こうした理論的な説明をおこなうよりも、具体的な例を挙げた方がわかりやすいかもしれない。
 いま、ある人が家の購入(こうにゅう)を切望しているとしてみよう。彼(かれ)はさまざまな住宅会社を訪ねたり、住宅フェアに顔をだしたりするであろう。【7】加えて、彼(かれ)はできるだけ安い価格で家を購入(こうにゅう)したいと望んでいるにちがいない。しかしながら、彼(かれ)が購入(こうにゅう)者として住宅市場に現れたという事実は、原理上、需要(じゅよう)を高め、彼(かれ)の意に反して価格を上昇(じょうしょう)させる。【8】ここにあるのは、まさに(資本主義)社会の特定のメカニズムである。他方で、需要(じゅよう)の増大が価格の低落をもたらす場合があるとすれば、そこには大量生産といった別種の資本主義的メカニズムが働いている。
 もうひとつ、例をあげてみよう。【9】多くの人は競争を好まない――とくに友人同士の場合には――と仮定してもよいだろう。しかしながら、たとえばポストの数にはかぎりがあるといった状況(じょうきょう)が生じたならば、誰(だれ)もが競争したくないと思っていても、競争が必然的に生じてこざるをえないだろう。【0】この種の競争という状況(じょうきょう)を、各人の名誉(めいよ)心とか、闘争(とうそう)心といったものを原因として説明するのはまさに心理的主義であり、本末転倒(ほんまつてんとう)である。こうした場合、名誉(めいよ)心とか、闘争(とうそう)心といった心理はむしろ状況(じょうきょう)の産物である。われわれの社会は、意図であれ陰謀(いんぼう)であれ、それらを当初の企て(くわだ )どおりに実現させることはきわめて稀(まれ)である。テロリストがテロ行為(こうい)によって彼ら(かれ )の(遠大な)目的を実現させることはまずできない。陰謀(いんぼう)理論は、たとえ常識の世界でどれほど受け入れられているにせよ、社会のメカニズムを考慮(こうりょ)に入れていないという明白な欠陥(けっかん)をもっている。
 ポパーはこうした社会のメカニズムを制度という観点から分析(ぶんせき)することを制度分析(ぶんせき)と呼んだ。社会の諸制度はそのなかで行為(こうい)がおこなわれるもろもろの枠組み(わくぐ )である。それらは、大部分が意識的に設計されその通りに形成されたものではなく、意図されなかったものとして、あるいは意図に反して形成されたもの(副産物)である。ハイエクの言葉でいえば、社会の諸制度は自主的秩序(ちつじょ)である。制度分析(ぶんせき)は、制度を支えているものとしての伝統や慣習――これらも広い意味での制度である――のみならず、制度がおのずからにしてもった目的や機能、また制度における人員配置の問題、さらには制度が引きおこす諸帰結などを分析(ぶんせき)する。
 制度分析(ぶんせき)の概念(がいねん)にくらべると、状況(じょうきょう)の論理あるいは状況(じょうきょう)分析(ぶんせき)の概念(がいねん)はより広い領域をカバーすることができるように思われる。それは、定義的にいえば、事態のもつ必然性の分析(ぶんせき)である。ポパーは、トルストイに言及(げんきゅう)しながら、ナポレオン戦争下ロシア軍が闘う(たたか )ことなくモスクワを明け渡し(あ わた )、糧食(りょうしょく)をみつけることのできる場所へ退却(たいきゃく)していった事態を状況(じょうきょう)の論理(必然性)の一例としてあげ、トルストイの分析(ぶんせき)の基本的正しさを認めている。ポパーにとっては、状況(じょうきょう)の論理を再構成すること、あるいは状況(じょうきょう)を徹底的(てっていてき)に分析(ぶんせき)することが、(記述的)社会科学や歴史学にとっての課題となる。ポパーのことばでいえば、それ(状況(じょうきょう)分析(ぶんせき))は「行為(こうい)が客観的に状況(じょうきょう)に適合したものであったことを認識することである。換言(かんげん)すれば、たとえば、欲求、動機、記憶(きおく)、連想などのはじめは心理的なものと思われた要素は、状況(じょうきょう)の要素に変わってしまうほどに状況(じょうきょう)が徹底的(てっていてき)に分析(ぶんせき)される。……状況(じょうきょう)分析(ぶんせき)の方法は、たしかに個人主義的な方法ではあるが、心理学的なものではない。というのも、それは心理的な要素を原理的に排除(はいじょ)し、客観的な状況(じょうきょう)の要素によって置き換え(お か )ているからである」。

(小河原誠『ポパー 批判的合理主義』による)

問1:  ~字
文字数(もじすう):0字



問2:  ~字
文字数:0字



問3:  ~字
文字数:0字



問4:  ~字
文字数:0字