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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
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 【1】こうしてケーキミックスは大ヒットした。アメリカ国内で売りつくすと、ヨーロッパやオーストラリアにも進出した。どこでも大当たりだった。そして次の有望な市場として日本に目が向けられた。
 【2】調査してみると、日本はすっかり欧米(おうべい)化しているようだった。日本人の食生活の洋風化はきわだっており、インスタントコーヒー、粉末スープなどの市場がすくすくと成長していた。和菓子(わがし)がおとろえ、洋菓子(ようがし)に人気が集まっていた。【3】洋菓子(ようがし)の売り上げ全体の一割(わり)でも獲得(かくとく)できれば、利益はじゅうぶん得られる。
 ただし、そのころの日本にはオーブンを持っている家庭がほとんどなく、従来(じゅうらい)のケーキミックスをそのまま持ちこむわけにはいかなかった。【4】しかし、オーブンはなくても、電気釜(でんきがま)(自動炊飯(すいはん)器)ならどの家庭にもある。そこで、電気釜(でんきがま)で作れるように改良することがケーキミックスの技術的な課題になった。アメリカの優秀(ゆうしゅう)な技術陣(じん)は、この課題を解決し、りっぱな製品を作り上げた。
 【5】そして、日本の主婦にモニター(意見を述べる役)を依頼(いらい)して、実際に電気釜(でんきがま)でケーキを作ってもらった。評判は上々だった。
 この結果をふまえ、ケーキミックスの製造会社は自信満々で日本市場に進出することを決定し、日本の大手企業(きぎょう)との合弁会社(資金を出し合って作る会社)が設立された。【6】かなりの宣伝(せんでん)費をかけて売り出すと、たちまちまねをする会社が現れて似たような製品を発売するほどで、成功はまちがいないように思われた。
 ところが、ケーキミックスは日本の市場では完全な失敗だった。【7】さっぱり売れなかった。
 この段階(だんかい)になって、初めて私(わたし)に原因調査の依頼(いらい)があった。私(わたし)は主婦を集めてグループに分け、雑談形式で話を進めてもらった。最初は建て前ばかりでも、だんだんうちとけて本音を言うようになるものである。【8】初めのうち、ケーキミックスを使ったことのない人は、「おもしろそうね。」「作ってみたい。」などと言っていたし、使用経験者も「なかなかよくできてる。」などと好意的な意見を言っていた。【9】しかし、話が進むうちに、
「でも、あれは、バニラ(香料(こうりょう)の一種)やチョコレートが入っているのよね。」
という発言があった。これをきっかけに、いっきょに、売れない理由が解明されることになった。
 【0】日本の食文化におけるお米の重要さはいうまでもない。食生活が欧米(おうべい)化したといっても、一日のうちでいちばん大事な夕食が、いまだにお米中心であるということは、最近の厚生省の調査でも明らかだ。欧米(おうべい)の若い(わか )女性が手作りのケーキのよしあしで判断されたように、日本のおよめさんにとっては、ふっくらした白い御飯(ごはん)をたくことが重要な課題なのだ。
 ライス・カルチャー(お米の文化)といわれる日本文化の中で、お米は純粋(じゅんすい)さの象徴(しょうちょう)なのである。白米が尊重(そんちょう)され、カレーなどもあくまでも後からかけるものであり、茶飯(ちゃめし)やピラフは、しょせん基本的な調理にはなりえない。
 その御飯(ごはん)をたくのと同じ器でケーキを作ると、バニラやチョコレートに汚染(おせん)されてしまうのではないか――。日本の主婦がひっかかったのはそこだった。
「電気釜(でんきがま)をよく洗え(あら )ばだいじょうぶだ」
というのは、ひじょうにあさはかな考えで、答えになっていない。人間の心理はそんなに簡単(かんたん)なものではない。
 日本人のこうした感覚を欧米(おうべい)人に説明するために、私(わたし)はこういうたとえを用いた。
「これは、イギリスの主婦に、ティーポットでコーヒーを作れ、というようなものだ。」
 この分析(ぶんせき)結果を聞いたケーキミックスは、きっぱり日本市場から引き上げていった。問題が、そこまで民族的な伝統に根ざしている以上、手の打ちようがないからである。

 (ジョージ・フィールズの「電気釜(でんきがま)でケーキがつくれるか」にもとづく。開成中)