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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
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 【1】私(わたし)は改めて自分の部屋に行ってみた。昨晩(さくばん)母が苦労して片づけ(かた  )たおかげで、かなり快適そうな子供部屋(こどもべや)になっていた。全然見ない百科事典が全巻(ぜんかん)あるのも今ならこの部屋にふさわしい。まるで賢い(かしこ )子供(こども)の部屋のようだ。【2】こんなキチンとした部屋を使用している子供(こども)なら、毎日規則正しく予習復習をやり、夕飯には野菜スープと肉の焼いたやつなどを食べ、家族と少し談笑をした後、風呂(ふろ)に入ってすみやかに眠る(ねむ )のであろう。【3】そして朝は早起きをし、遅刻(ちこく)などという愚かしい(おろ   )行為(こうい)とは縁(えん)がなく、学力優秀(ゆうしゅう)で人望も厚いのである。もちろん、親から怒ら(おこ )れる事などない。私(わたし)とは、どこをとっても異質(いしつ)な子供(こども)の部屋である。
 【4】明らかに急激(きゅうげき)に片づけ(かた  )たとバレる気がする。日常とは違う(ちが )、とってつけたような空気が充満(じゅうまん)している。机(つくえ)の上がきれいなのもわざとらしい。だが机(つくえ)の引き出しを開けてみると、昨日捨て(す )なかった小物類がゴチャゴチャと入っていた。【5】パンダの貯金箱やゴムボールや、紙せっけんや半分使った目薬もあった。こまかい物を母が適当にこの引き出しの中に入れたのだ。ちらかっていた昨日までの子供部屋(こどもべや)のミニチュア版という感じである。
 【6】一見きれいに見えるこの部屋も、引き出しを開ければこんなもんである。所詮(しょせん)、茶番(ちゃばん)にすぎないのだ。
 先生が来る時間が近づくにつれ、私(わたし)は憂鬱(ゆううつ)になっていった。【7】どうせ母は先生に、ももこはちっとも勉強せずに手伝いをするわけでもなく怠け(なま )てばっかりというような事を話すであろう。遅刻(ちこく)ギリギリに登校するのは朝のトイレが長いせいだという余計な事まで言うかもしれない。【8】先生は先生で、ももこさんは学校では特に目立つ活躍(かつやく)もない生徒だからもっと奮起(ふんき)を望むところだというような事を母に告げるであろう。そして私(わたし)は先生が去った後に母から「アンタしっかりしなきゃだめだよ」などと言われるのが関の山である。
 【9】そんなつまらない情報を交換(こうかん)するために畳(たたみ)まで替える(か  )必要があるだろうか。「あーあ……」という気分である。
 やがて、先生はやって来た。母は先生をあの安宿のような和室に招き入れ、ヒロシの仕入れたイチゴを運んで私(わたし)についての話を始めた。【0】ふすまの向こうから、先生と母の声がきこえてくる。時折両者の笑い声もきこえる。私(わたし)についての話なのに、何をそんなに笑うのか、気になるところである。笑い声がきこえればきこえたで気になるし、静まれば静まったで気になる。自分の事というのは何かにつけ気になるものである。
 十五分余りで話は終わったらしく、先生と母が子供部屋(こどもべや)にやってきた。先生は、入ってくるなり「お、きれいに片づい(かた  )ているなァ。普段(ふだん)はもっとちらかっているだろう?」と一番痛い(いた )ところを突き(つ )、私(わたし)と母は赤面した。だから、バレるようなことはしない方がいいのだ。先生は私(わたし)の机(つくえ)の上を見て、「お、机(つくえ)の上もきれいになっているね。だけど引き出しの中はどうかな」と言って引き出しを開けた。
 万事休す。もうおしまいである。ゴチャゴチャな引き出しの中を見た先生はプッと吹き出し(ふ だ )、私(わたし)と母はますます赤面した。脳天(のうてん)にマグマが上昇(じょうしょう)してゆくような熱さを感じた。うつむいて黙っ(だま )て赤面している間も、新しい畳(たたみ)の匂い(にお )が漂っ(ただよ )てきてやるせない。
 先生がお土産を持って去った後、母は私(わたし)に「アンタ、もっとしっかりしなきゃだめじゃないの」と、予想通りの小言を言った。私(わたし)は母の小言を「はいはい」と軽く聞き流し、外へ遊びに行こうと思って店先に出た。

(さくらももこ「あのころ」より。東海大附属(ふぞく)浦安(うらやす)中)