未ログイン ログイン
音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
※最初にログインをしてください。言葉の森の団体コードは、aaa001です。
※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
2.はじめに、音声入力を始めるのボタンを押してください。
3.音読が終わったら音声入力を止めるのボタンを押してください。
4.音声入力を止めたあと、結果を送信するのボタンを押してください。



 【1】私(わたし)たちは長い間、木綿と木の中で暮らし(く  )てきた。だが明治以降(いこう)それを捨て(す )て、新しいものへ、新しいものへと人工材料を追いかけてきた。
 (中略)
 【2】今、千三百年たった法隆寺(ほうりゅうじ)のヒノキの柱と新しいヒノキの柱とではどちらが強いかときかれたら、それは新しいほうさ、と答えるにちがいない。【3】だが、その答えは正しくない。なぜならヒノキは、切られてから二、三百年の間は、強さや剛性(ごうせい)がじわじわと増して二、三割(わり)も上昇(じょうしょう)し、その時期を過ぎて後、ゆるやかに下降(かこう)する。【4】その下がりカーブのところに法隆寺(ほうりゅうじ)の柱が位置していて、新しい柱とほぼ同じくらいの強さになっているからである。つまり、木は切られた時に第一の生を断つが、建築の用材として使われると再び第二の生が始まって、その後、何百年もの長い歳月(さいげつ)を生き続ける力をもっているのである。
 【5】バイオリンは、古くなるほど音がさえるというが、それもこの材質の変化で説明できる。用材の剛性(ごうせい)が増すとともに、音色がよくなるのである。【6】したがって、音色がよくなるのはある時期までで、その後はしだいに元にもどっていくだろうことも想像に難く(かた )ない。
 ところで、その名人によると、ヒノキでつくったバイオリンは、どうしても和風の響き(ひび )がするというのである。【7】もともとバイオリンは、トウヒとカエデを組み合わせてできたものである。使用する樹種(じゅしゅ)も形も、十六世紀後半に定まり、それ以後、近代科学の改良案もほとんど寄せつけないほどに完成した、手工芸の結晶(けっしょう)である。【8】ほかの樹種(じゅしゅ)に置き換える(お か  )のが難しい(むずか  )ことはよくわかる。だが、ヒノキのバイオリンは和風の響き(ひび )がするというのはおもしろい。
 木は同じ種類のものでも、産地により立地によって、材質が少しずつ違う(ちが )。【9】それは、物理的、化学的な試験によっても証明できないほどの微妙(びみょう)な差であるが、市場では長い経験によってそれぞれを区別し、値段(ねだん)も取り扱い(と あつか )も違っ(ちが )ている。例えば、ヒノキの中では木曾(きそ)産のものが最高級だ、といったような評価である。
 【0】また、木はそれが生育した土地で使われたとき、いちばんしっくりとして長持ちするということも、木に詳しい(くわ  )人たちのよく知るところである。これは木のもつ風土性とでもいうべきもので、どこか食べ物の話に似ている。その土地でとれた素材を使い、伝統の調理法でつくった料理がいちばんうまい、というのと同じような意味あいである。
 ヒノキの属には世界に六つの種があるが、なかでも日本のヒノキは材としての風格が一段と(いちだん )高い。だからこそ白木造りの建築が生まれたのであるが、それは日本という風土の中に置かれたときが最もふさわしく、また性能も発揮(はっき)する。つきつめていえば、木曾(きそ)のヒノキは木曾(きそ)で使われたとき、奈良(なら)のヒノキは奈良(なら)で使われたときが、いちばんしっくりするということになるだろう。
 私(わたし)たちは、機械文明の恩恵(おんけい)の中で、工学的な考え方に信頼(しんらい)を置くあまり、数量的に証明できるものにのみ真理があり、それだけが正しいと信じすぎてきたきらいがあった。だが、自然がつくったものは、木のように原始的で素朴(そぼく)な材料であっても、コンピューターでは解明できない側面をもっているのである。

 (小原二郎(じろう)『日本人と木の文化』による)