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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
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 僕(ぼく)は一度だけ塾(じゅく)に通ったことがある。
 小学校の六年生から中学の一年生の春までの間で、場所は北海道の帯広だった。塾(じゅく)の名前は正式の名称(めいしょう)があったはずだが、今や覚えているのは狸(たぬき)塾(じゅく)という通称(つうしょう)のほうだけだ。(別名ぽんぽこ塾(じゅく)と呼ば(よ )れていた)何故その塾(じゅく)に通いだしたのかは忘れ(わす )てしまった。多分同級生がそこへ通っていたからだろう。あの頃(ころ)、僕(ぼく)には三人の仲間がいた。
 ありもり、おのだ、まなべ、の三人である。僕(ぼく)を含め(ふく )て四人は学校が終わると毎日自転車をとばして塾(じゅく)へ通うのだった。雨の日も風の日も僕ら(ぼく )は自転車でそこへ通っていた。競争するように競って、びゅんびゅん風を切って走っていたのである。
 そうだ、今思い出した。僕(ぼく)がそこへ彼ら(かれ )と通うようになったのには、ちょっとした理由があったのだ。同じクラスのあやべさんという女の子がやはり通っていたからだ。僕(ぼく)は彼女(かのじょ)のことがきっと好きだったのである。どうもまだ愛とか恋(こい)とかその手の感情に鈍感(どんかん)な時期だったので、あれがそういう感情のものだったかどうかちょっと自信がないのだが、授業中彼女(かのじょ)のきりりとした横顔を見るのがすきだったことは確かだった。その横顔をもっと見たくて勉強の嫌い(きら )な僕(ぼく)は塾(じゅく)通いを決心したのである。あやべさんは帯広の大きな病院の令嬢(れいじょう)で、ゴトウクミコにまさるともおとらない美形(いや、これは信じて頂く(いただ )しかないのだが)な才女だったのだ。学校では当然人気者で、僕(ぼく)などそうやすやすと近づくことさえできなかったのである。だから、僕(ぼく)は彼女(かのじょ)と同じ塾(じゅく)へ通うことにしたのだ。(中略)
 僕ら(ぼく )は塾(じゅく)帰りに、途中(とちゅう)の国道沿い(ぞ )の雑貨屋で肉饅(にくまん)を買って食べる習慣があった。季節が変わり寒くなりはじめると湯気の昇る(のぼ )肉饅()を食べることが凄(すご)く楽しみになるのだ。北海道の夜空は星が高く、きらきらと散りばめるように灯っていて吸い込ま(す こ )れそうだった。僕ら(ぼく )は肉饅()を口いっぱいにほおばりながら、その神秘(しんぴ)的な輝き(かがや )を見つけていた。大きな星空を見ていると、自分たちの存在(そんざい)の小ささに気を失いそうになった。
 僕ら(ぼく )は微妙(びみょう)な年頃(としごろ)であった。恋(こい)を知り、物事をわきまえ始める年齢(ねんれい)であったのだ。
「なあ、ニック。君は誰(だれ)か好きな女の子はいるのかい」
 ジョンは缶(かん)コーヒーを啜(すす)りながらそういった。
 僕(ぼく)は思わず食べていた肉饅()が喉(のど)に詰まり(つ  )そうになって、一度咳払い(せきばら )をするのだった。
「なんだよジョン、いきなりそんなことききやがって」
(帯広はあまり方言らしい方言がなく、殆(ほとん)ど標準語であった。それから僕ら(ぼく )の年齢(ねんれい)の子供(こども)たちはテレビの影響(えいきょう)もあって、東京風の言葉を使うのがかっこいいとされていたのである。僕(ぼく)は直ぐに土地の言葉や習慣になれる才能を持っていたのだ。それがないと転校生は余所(よそ)の土地では生き残ってはいけないからだ)
「お、顔が赤いぞ。さては図星君だな」
 ジョンがそういって僕(ぼく)の肩(かた)を叩く(たた )ので、僕(ぼく)は思わず目を伏せ(ふ )てしまった。
「だれだよ、ニックは誰(だれ)が好きなんだ」
 ロバーツが煽(あお)る。
「ひゅー、ひゅー」
 サムはポケットに手を突っ込ん(つ こ )だままマフラーに首を竦(すく)めて僕(ぼく)を冷やかした。(中略)
 僕(ぼく)は夜空を見上げた。星の瞬き(まばた )がキャサリンのウインクのようで胸(むね)がときめいていた。沢山(たくさん)の初恋(はつこい)を経験していたが、多分あのときの感情が僕(ぼく)の本当の恋(こい)の第一歩ではなかったかと思うのだ。胸(むね)がときめくということを知ったのはまず間違い(まちが )なく(断言はできないが)キャサリンが最初の女性であった。

(辻(つじ)仁成(ひとなり)「キャサリンの横顔」)