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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
2.はじめに、音声入力を始めるのボタンを押してください。
3.音読が終わったら音声入力を止めるのボタンを押してください。
4.音声入力を止めたあと、結果を送信するのボタンを押してください。



「潔」と進がいった。「われのところに新しい本が東京から送って来たと違う(ちが )か」 
「ああ」ぼくはいった。「この間、小包で送って来たんや」 
「貸してくれんか」と進はやさしくいった。 
「いいよ」 
とぼくはほとんどいそいそとしていった。進の意を迎える(むか  )ことのできる材料が意外にも身近にあったのがうれしかった。 
「今日持って行こうか」 
「おれがわれんちに行くわい」と進はいった。 
 その日進は約束した通りやって来た。ぼくはかれを自分の部屋に通して、伯母(おば)にたのんでそこに作ってもらってあったこたつに入るように勧め(すす )た。
 進はぼくの見せた本のどれにもこれにも目をかがやかした。 
「東京にはもっとあるんやろう」 
「たのむから送ってもろうてくれんか」 
「おれ今まで家の手伝いで読めんなんだろう、冬に入ってようやく読む時間ができたんや」 
「四月に入れば、中学に入るための勉強せんならんから、読めんようになるしな」 
と進は興奮したように次から次へとしゃべった。 
 東京に残っている本を小分けにして小包で送って欲しいとその日のうちに手紙でたのんでみると進に約束すると、進はようやく興奮を鎮(しず)め安心した風を見せた。 
 ――その日進は高垣(たかがき)眸(ひとみ)の「竜神(りゅうじん)丸」と南洋一郎(よういちろう)の「吼(ほ)える密林」とを借りて行った。 
 そして進との交友は再び復活し、冬休みの時と同じくらいの頻度(ひんど)でおたがいの家を往(ゆ)き来した。家での進は学校での進と別人の観があった。進が学校でも、家で会う時と同じように振る舞っ(ふ ま )てくれたら、ぼくは進を本当に親友と見なし大切に思ったに違い(ちが )ない。しかしぼくは家を出て家に帰るまでの進の専横な振る舞い(ふ ま )を決して忘れるわけには行かなかった。進がそんなぼくの気持ちに感づいていたかどうかは分からなかった。しかしとにかくぼくたちは二人だけでいる限り、気が合い、話題も尽き(つ )なかった。話は戦争の見込み(みこ )や、勉強の計画、自分たちの将来などに及ん(およ )だ。 
 たとえば将来の夢について、「戦争が長びくようやったら」と進はいうのだった。 
「おれァ、海兵を受けることにやっぱり決めたわ」 
 もし終わったらどうするかというぼくの問いに対してかれは答えた。 
「高等学校へ入って帝(てい)大へ行き高文を受けて、官吏(かんり)になるわ、われの家の人みたいにな」 
 かれの頭に、成功した郷里の先輩(せんぱい)としてぼくの父が描か(えが )れていたことに間違い(まちが )なかった。そしてかれがおそれていることは戦争が早く終わって、ぼくが東京に早く引き揚げ(ひ あ )てしまい、一緒(いっしょ)に受験勉強もできなくなってしまうことらしかった。その証拠(しょうこ)に、かれは何度となく、 
「戦争が終わっても六年はここで終えて行くのやろ、それから東京の中学を受ければいいにか」とぼくに確かめたからである。もちろんぼくはそうするつもりだと嘘(うそ)をついた。 
 ぼくらはよく一緒(いっしょ)に風呂(ふろ)へも行った。すると風呂(ふろ)で一緒(いっしょ)になる大人たちは、浜(はま)見一番のあんぼ(しっかり者の長男)と寛平(かんぺい)さの東京の子がすっかり意気投合し親友になったことを祝福してくれた。するとぼくの心は自分が間違っ(まちが )て見られていることに対する不満と、そんな風に誤解されてもしようがないように振る舞っ(ふ ま )ている自分に対する嫌忌(けんき)の念にひそかに包まれた。ぼくはいつも心の奥底(おくそこ)で、自己に忠実でありたかったから、家に帰ってからの進との往き来を今のような形で続けるのを拒否(きょひ)すべきか、もしくは進の方で学校での態度を改めるべきだと思っていた。そのことが二つとも実現しない限り、自分に忠実でなく、虚偽(きょぎ)の生活を行っているのだと思っていたのだった。しかし現実のぼくは、内心の願いとはまったく逆に、昇(のぼる)の貢物(みつぎもの)の一件以来、進の勢力の偉大(いだい)さを思い知らされ、もはや昇(のぼる)と協力して級を改革する夢にふけることもできなくなり、努めて進の意にそうように振る舞っ(ふ ま )ているのだった――