未ログイン ログイン
音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
※最初にログインをしてください。言葉の森の団体コードは、aaa001です。
※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
2.はじめに、音声入力を始めるのボタンを押してください。
3.音読が終わったら音声入力を止めるのボタンを押してください。
4.音声入力を止めたあと、結果を送信するのボタンを押してください。



 【1】さて、人間を科学的に知ろうとすると、えてして人間を、機械のように考えようとする傾向(けいこう)があります。心臓(しんぞう)はポンプで、眼(め)はカメラで、脳(のう)はコンピューターのようなもの、と考えたりします。テレビのSF作品にも、よく登場する機械のような人間や、人間のような機械がそれです。
 【2】人体を機械と同じように、心臓(しんぞう)や胃などの部分品が集まってできているものと考える考え方では、胃がおかしいときには胃という部分品が故障(こしょう)したと考えます。そうして、胃を修繕(しゅうぜん)しさえすれば、病気が治ったと考えることになります。
 【3】また、脳(のう)とコンピューターを同じに考える人には、いまのコンピューターは脳(のう)の代わりを完全につとめることはできないまでも、ある面では脳(のう)よりもすぐれているようにみえます。そうして、いつの間にか、コンピューターと同じようにはたらく脳(のう)をすぐれた脳(のう)と思うようになります。【4】速く正確(せいかく)に計算ができたり、なんでもそのまま記憶(きおく)できたりすることが、アタマがよくなることだと考えている人も少なくないでしょう。
 しかし、人間は機械と同じなのでしょうか。人間は複雑(ふくざつ)な機械にすぎないのでしょうか。【5】もちろん、人間には機械に似(に)たところもあります。そこで、人間のことを機械を研究するように研究するのも無意味ではないのですが、しかし、そこでわかることは人間の一面だけなのです。それを暗示(あんじ)する例を一つ紹介(しょうかい)しましょう。
 【6】アメリカでは、一九七七年の建国二〇〇年を記念するつもりでその何年も前から火星へのロケット着陸とガン制圧(せいあつ)という二つの大きな研究目標をたてました。このときまでに科学者が力を合わせて大規模(きぼ)な研究をした結果、すでに人工衛星(えいせい)をつくることができたし、月旅行も成功していました。【7】従って(したが  )、この二つの大きな研究目標も同じように達成できるという自信があったのでしょう。ところが月旅行の技術(ぎじゅつ)を進歩させた火星ロケットは成功しましたが、一方のガンの治療(ちりょう)の方はあきらめざるをえませんでした。【8】つまり、機械をつくる科学は急速に進歩していますが、そういう科学では生物や人間のことは必ずしもわからないのです。機械と人間は同じではないからです。
 それでは、どこが違う(ちが )のでしょう。それは、人間は、いつも生きるために行動するということが違う(ちが )のです。【9】機械は生きていませんから、生きるために行動するということはありません。「なんだ、そんなことか」と君は思うかもしれません。しかし、問題はそれからです。つまり、この話は、生きるとはどういうことかがわからないと、ほんとうの意味はわかりません。【0】
(中略(ちゅうりゃく))
 さらに、まだ違う(ちが )点があります。機械ならば、いつも同じように動いている方がいい機械だということになります。進んだり後れたりする時計や、ときに動かないこともある自動車などというものは故障(こしょう)している機械です。しかし、人間はいつも同じことをしてはおりません。人間は、ただ動いていればいいというものではないのです。
 たとえば、君は毎日同じように学校に通っていますが、一日一日の生活は、けっして同じではありません。勉強や友達の話から新しいことを一つでも知れば、それだけ君の生活も変わります。とにかく、君が生まれたときには、ときどき泣いたりお乳(ちち)を飲んだりするだけで、あとはほとんど眠り(ねむ )つづけているという赤ちゃんでした。
 その君が、いまはこの本を読むようになるまで、毎日少しずつ変わってきているのです。
 このように、変わってゆくのが人間ですが、それは、ただ変わるのではなくて、進歩し、高等になってゆくのです。機械は使ってゆくうちにむしろ性能(せいのう)が落ちてゆくのですから、人間とはまるで反対です。つまり、人間はただ死なないように行動しているというのではなく、進歩発展(はってん)するという点で機械と違う(ちが )のです。生きるとはそういうことなのです。
 念のために書いておきますが、これは、人間は進歩発展(はってん)しなければならない、といっているのではなく、人間は進歩発展(はってん)するようにつくられている、ということなのです。いやでも、そうなるようになっている、ということです。

(千葉康則(やすのり)「脳(のう)のはたらき」より)