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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
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 【1】井戸端(いどばた)園の若旦那(わかだんな)が、ある日、私に話してくれました。
 「施肥(せひ)が充分(じゅうぶん)で栄養状態のいい茶の木には、花がほとんど咲き(さ )ません。」
 花は、言うまでもなく植物の繁殖(はんしょく)器官、次の世代へ生命を受け継が(う つ )せるための種子をつくる器官です。【2】その花を、植物が準備しなくなるのは、終わりのない生命を幻覚(げんかく)できるほどの、エネルギーの充足(じゅうそく)状態が内部に生じるからでしょうか。
 死を超える(こ  )ことのできない生命が、超えよ(こ  )うとするいとなみ――それが繁殖(はんしょく)ですが、そのいとなみを忘れさせるほどの生の充溢(じゅういつ)を、肥料が植物の内部に注ぎこむことは驚き(おどろ )です。【3】幸福か不幸かは、別として。
 施肥(せひ)を打ち切って放置すると、茶の木は再び花を咲かせる(さ   )そうです。多分、永遠を夢見させてはくれないほどの、天与(てんよ)の栄養状態に戻る(もど )のでしょう。
 茶は、もともと種子でふえる植物ですが、現在、茶園で栽培(さいばい)されている茶の木のほとんどは挿し木(さ き)もしくは取り木という方法でふやされています。
 【4】井戸端(いどばた)園の若旦那(わかだんな)から、こんな話を聞くことになったのは、私が茶所・狭山(さやま)に引越し(ひっこ )た年の翌春、彼岸(ひがん)ごろ、たまたま、取り木という苗木(なえぎ)づくりの作業を、家の近くで見たことがきっかけです。
 【5】取り木は、挿し木(さ き)と、ほぼ同じ原理の繁殖(はんしょく)法ですが、挿し木(さ き)が、枝を親木から切り離し(き はな )て土に挿し(さ )こむところを、取り木の場合は、皮一枚つなげた状態で枝を折り、折り口を土に挿し(さ )こむのです。親木とは皮一枚でつながっていて、栄養を補給される通路が残されているわけです。
 【6】茶の木は、根もとからたくさんの枝に分かれて生長しますから、かまぼこ型に仕上げられた茶の木の畝(うね)を縦に切ったと仮定すれば、その断面図は、枝がまるで扇(おうぎ)でもひろげたようにひろがり、縁(えん)が、密生した葉で覆わ(おお )れています。【7】取り木は、その枝の主要なものを、横に引き出し、中ほどをポキリと折って、折り口を土に挿し(さ )こみ、地面に這っ(は )た部分は、根もとへと引き戻さ(ひ もど )れないよう、逆U字型の割り竹で上から押さえ(お  )、固定します。【8】土の中の枝の基部に根が生えたころ、親木とつながっている部分は切断され、一本の独立した苗木(なえぎ)になるわけですが、取り木作業をぼんやり見ている限りでは、尺余の高さで枝先の揃っ(そろ )ている広い茶畑が、みるみる、地面に這いつくばっ(は     )てゆくという光景です。
 【9】もともと、種子でふえる茶の木を、このような方法でふやすようになった理由は、種子には変種を生じることが多く、また、交配によって作った新種は、種子による繁殖(はんしょく)を繰り返し(く かえ )ている過程で元の品種のいずれか一方の性質に戻る(もど )傾向(けいこう)があるからです。【0】(中略)
 「随分(ずいぶん)、人間本位な木に作り変えられているわけです。」若旦那(わかだんな)は笑いながらそう言い、「茶畑では、茶の木がみんな栄養生長という状態に置かれている。」とつけ加えてくれました。
 外からの間断ない栄養攻め(せ )、その苦渋(くじゅう)が、内部でいつのまにか安息とうたた寝(   ね)に変わっているような、けだるい生長――そんな状態を私は、栄養生長という言葉に感じました。
 で、私は聞きました。
 「花を咲かせ(さ  )て種子をつくる、そういう、普通(ふつう)の生長は、何と言うのですか?」
 「成熟生長、と言ってます。」
 成熟が、死ぬことであったとは!
 栄養生長と成熟生長という二つの言葉の不意打ちにあった私は二つの生長を瞬時(しゅんじ)に体験してしまった一株の茶の木でもありました。(中略)
 その後、かなりの日を置いて、同じ若旦那(わかだんな)から聞いた話に、こういうのがありました。
 ――長い間、肥料を吸収しつづけた茶の木が老化して、もはや吸収力をも失ってしまったとき、一斉(いっせい)に花を咲き(さ )揃え(そろ )ます。
 花とは何かを、これ以上鮮烈(せんれつ)に語ることができるでしょうか。