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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
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【長文が二つある場合、読解問題用の長文は一番目の長文です。】
 「私が結婚(けっこん)相手に望む経済力は、そんなに大きなものではありません。ただ私と子ども二人が安心して暮らせる程度でいいのです。子どもには小さいときから習い事をさせてやりたいです。お金がないからといって子どもにみじめな思いをさせるのだけは絶対にいやです。そして、子ども二人を私立大学に行かせてやれるくらいの給料は求めます(だって、私もそうしてもらったので当然だと思います)。月に一回は外食し(もちろん廻(まわ)るお寿司(すし)ではなく、お洒落( しゃれ)なイタリアンとかです)、年に一回は海外旅行に行く。そういう程度の経済力です。私には玉の輿(たま こし)願望はありません。私の両親が夫の両親に対し、肩身(かたみ)の狭い(せま )思いをするのはいやなので、軽い玉の輿(たま こし)程度で十分です。もちろん夫は真面目に働く人でないと困ります。ちょっといやなことがあると会社を辞めるとかされたりすると、とても困ります。それから、土曜日には子どもを連れて公園でサッカーしたり、川の堤防(ていぼう)の下でキャッチボールしたりするのを、私は堤防(ていぼう)の草むらに坐っ(すわ )て眺める(なが  )のが夢です。それから、煙草(たばこ)を吸う人は絶対にお断りです。本人よりも周りにいる私や子どもたちの受動喫煙(きつえん)が怖い(こわ )からです。家族(子どもと私の両親)を大事にして、結婚(けっこん)記念日とかは絶対に覚えていてくれないといやです。あとDVとかして、暴力を振るう(ふ  )人ももちろんお断りです。まだ、他にもありますが、先生が三つまでと言われたので、このくらいにしておきます」
 言っておくが、これは学生の書いたものを合成したり、特定の個人のものを意図的に抽出(ちゅうしゅつ)したりしたものではない。みんなみんな、こう書いてくるのである。なんでここまで同じなのか、私が聞きたいくらいである。この女子学生の結婚(けっこん)願望を男子学生に紹介(しょうかい)すると、教室中に「冬虫夏草」みたいな菌糸(きんし)状のものが浮遊(ふゆう)する。漠然と(ばくぜん )した怒り(いか )と不安めいたものだ。
 こういう、学生の書いたものを何年も多数読んできて、私はこの国の晩婚(ばんこん)化は止まらないと思ったのである。今は、まだ晩婚(ばんこん)化で済んでいるが、これから非婚(こん)率の上昇(じょうしょう)も必至である。就職難と結婚(けっこん)難が、双子(ふたご)になってやってくる。
 男の子は、正社員として就職できずにフリーターになれば結婚(けっこん)できない。結婚(けっこん)できないで家庭を持てないから、就労意欲が低下し、ますます離職(りしょく)が促進(そくしん)される。女の子は、正社員で就労意欲の高い、ついでに給料も高い男性目指して、「容貌(ようぼう)偏差(へんさ)値」を上げるのに余念がない。しかし、「実用偏差(へんさ)値」はきわめて低い。料理を作ったことがない。ご飯を炊い(た )たことがないという女子は多い。なぜなら、女子学生の母親は「女は、結婚(けっこん)するといやでも家事をしなければいけないから、家にいるうちはそんな苦労をさせたくない」と、娘(むすめ)に家事をさせないからである。むしろ、男子学生の母親の方に「将来、息子が結婚(けっこん)したら、奥さん(おく  )も働いている可能性が高いので、男も家事ができなければならないので、今から教えている」と語るケースが多かった。だから、男の子の方が、基本的な炊事(すいじ)はできるのである。現在、大学生はとても忙しい(いそが  )。授業以外に専門学校に行き、アルバイトもしている。
 「バイトで深夜の十二時にアパートに帰り、カップ麺(めん)を食べていると侘しく(わび  )なり、就職してもこういう生活かと思うと、家に帰ったときにはやはり誰か(だれ )人の気配があってほしいなと思います」
 こういうことを女子学生が書いてきたケースは一回もない。男子学生にのみ見られる。こういう生活実感から来る結婚(けっこん)への憧れ(あこが )は、だからこそディテールに凝っ(こ )た具体的なものになるのであろう。

(小倉千加子『結婚(けっこん)の条件』)
 【1】今の世の中、孤独(こどく)という言葉は、なぜか悪いイメージで塗り(ぬ )固められている。いつからそうなったのか、私は知らない。いつの頃(ころ)からか、引きこもりという言葉が、現代の若者や子どもたちの、社会や学校に出られないで家にこもり切りになる特殊(とくしゅ)な状態を指すようになってから、孤独(こどく)のイメージはすっかり悪くなった。【2】言い換える(い か  )なら、引きこもりの若者や子どもたちが何万、何十万という数になってから、いよいよ孤独(こどく)のイメージは、社会的に手を差しのべてあげなければならないもの、克服(こくふく)しなければならないもの、といった否定的なものになってしまったのだ。
 【3】もちろん、集中的ないじめを受けたり、心の病になったりして、まともに対人関係を保てなくなった場合には、周囲からの何らかのサポートが必要であることは言うまでもない。そういう場合の孤独(こどく)と、人間ひとりが生きていくうえで本来的にまつわりつく孤独(こどく)とでは、本質において違う(ちが )もののはずだ。両者の間に明確な線引きはできないにしても。
 【4】ところが、両者をいっしょくたにして、すべて孤独(こどく)はあってはならないものであるかのような風潮になっているところに問題がある。子どもには子どもなりに、心の成長や考える力をつけるためには、孤独(こどく)な時間はとても大事なのに、今の社会はそのゆとりを持たせようとしない。【5】ミヒャエル・エンデの『モモ』に描か(えが )れた「時間貯蓄(ちょちく)銀行」の銀行員のように、何もしないでいると、たとえば、「あなたはきょうは、二時間三十一分四十七秒無駄(むだ)にした。一生は六十六万六千四百三十二時間二十五分四十八秒しかないのだから、時間をそんなに無駄(むだ)にしてはいけない。【6】一分一秒でも何もしない時間は私どもに預けなさい」といったぐあいに迫る(せま )のだ。
 やれ塾(じゅく)に、やれお稽古( けいこ)に、やれ宿題に、と迫ら(せま )れることに耐え(た )られない子どもたちは、ゲームやケータイやパソコンに没入(ぼつにゅう)する。【7】大人たちは奇妙(きみょう)なことに、ちゃーんとゲームやケータイやパソコンを大量生産して、子どもたちがどんどんその世界に入るのを誘っ(さそ )ている。そういうものをどんどん子どもに与える(あた  )のは、「麻薬(まやく)を与える(あた  )に等しい」と言ったのは、医療(いりょう)少年院に勤務する精神科医・岡田(おかだ)尊司氏だ。
 【8】ダブルバインド(二重拘束(こうそく))という精神医学用語を紹介(しょうかい)したことがある。社会学や人類学などマルチな才能を持つベイトソンという学者が作った、人間の心の領域にかかわる用語だ。ベイトソンが紹介(しょうかい)している象徴(しょうちょう)的な症例(しょうれい)はわかりやすい。母親が精神病院に入院中の息子に面会に行く。【9】息子と並んで座った母親は、口では「あなたを愛してるのよ」と言うが、内心では息子を恐れ(おそ )ている。息子は言葉をそのまま受けとめ、嬉しく(うれ  )なって母親にキスをしようとする。ところが、母親は一瞬(いっしゅん)だがピクッと顔をこわばらせ、キスされるのを避ける(さ  )ように身をそらす。【0】内心が身体に表れたのだ。息子は鋭く(するど )母親の二面性を読み取り、病室に駆け(か )戻る(もど )。母親が帰った後、息子は暴れまくり、保護室に入れられてしまう。
 親が二律背反のことを同時に子どもに言うと、子どもはどちらを選んでいいかわからなくなり、精神的に混乱したり、身動きができなくなったりする。そういう親に育てられた子は、心の発達にゆがみが生じるおそれがある。これがダブルバインドとその結末だ。

(柳田(やなぎだ)邦男(くにお)の文章による。一部省略がある。)