未ログイン ログイン
音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
※最初にログインをしてください。言葉の森の団体コードは、aaa001です。
※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
2.はじめに、音声入力を始めるのボタンを押してください。
3.音読が終わったら音声入力を止めるのボタンを押してください。
4.音声入力を止めたあと、結果を送信するのボタンを押してください。



 【1】実は現在インターネットの上では二つの力が争っていると思うんです。一方はそれを資本主義化してしまおうという力、もう一方はそれを贈与(ぞうよ)交換(こうかん)の世界へ引き戻そ(ひ もど )うという力です。
 【2】インターネットは、その出発点においては、アメリカ国防省から軍事研究を委託(いたく)されていた、研究者の間の科学研究の情報のネットワークであったわけですが、もともとの参加者である科学者にとっては、インターネットを経済的な目的に使うのは抵抗(ていこう)があるようです。【3】科学者の集団というのは、少なくとも建て前の上では、信用なるものによって結ばれている世界なのです。科学者がおたがいに論文を交換(こうかん)する、あるいは科学情報や技術情報を交換(こうかん)するとき、それは同じ科学コミュニティの一員としておたがいの名前を認めあっているからです。【4】たとえ個人的に名前を知らない場合でも、博士号を持っていたり、名のある研究機関に属している人間であれば同じです。そこでは、まさに名前というものが重要な役割を果たす信用のネットワークが築かれる。【5】そして、その名前が重要な役割を果たす世界とは、贈与(ぞうよ)交換(こうかん)の世界なのです。たとえば、古代ギリシアのホメロスの叙事詩(じょじし)のなかに出てくる英雄(えいゆう)たちは、他人から贈与(ぞうよ)を受けたら、自らの名誉(めいよ)を守るために、つまり自分の名前の信用を守るために、必ず贈与(ぞうよ)をした人間に対して返礼をする。【6】ここでは、まさにおたがいの名前に対する信用が人間と人間との交換(こうかん)を可能にしている。贈ら(おく )れるモノそのものに価値があるから返礼するのではなく、贈っ(おく )た人間と贈ら(おく )れた人間との間の一種の信用関係を保つためにモノが交換(こうかん)されるのです。
 【7】昨年、あるコンピュータ・サイエンスの会合に呼ばれて講演をしたときに出会った何人かの人たちは、コンピュータ・コミュニケーションの世界に資本主義的な要素が入り込ん(はい こ )でくるのをなるべく排除(はいじょ)しようとしていました。【8】それは、いうなれば、それを原初における贈与(ぞうよ)交換(こうかん)の世界のままに保ちたいという必死の抵抗(ていこう)でしょう。その極端(きょくたん)な例が、ソフトウェアを全部タダにしようと、それをネットを通じてタダでばらまこうという動きです。【9】コピーレフトですね。あれはインターネットから資本主義の原理を排除(はいじょ)して、なるべく古き良き贈与(ぞうよ)交換(こうかん)の世界に留めておこうという動きだと思います。
 【0】これがインターネットのなかで働いている一方の力ですが、しかし不幸にして、もう一方の力が厳として存在しており、それはいうまでもなく資本主義化への動きなのです。そして、コピーレフトに全面的に対抗(たいこう)する手段となるのが暗号化の技術です。インターネット上の情報を暗号化すると、その情報の内容はまさに秘密キーを持っている人間だけしか知ることができなくなる。つまり、ここに所有権が確保され、その所有権をもとにした商品交換(こうかん)が可能になるというわけです。
 いまインターネットを舞台(ぶたい)にして、この二つの力が争っているんだと思います。幸か不幸か、私は経済学者ですから、資本主義化への動きというものがいかに強いものであるかを良く知っています。そして、さらに不幸なことに、じつは贈与(ぞうよ)交換(こうかん)を維持(いじ)しようとしている動きには自己矛盾(むじゅん)がはらまれている。なぜならば、インターネットとは、原則としてすべての人が自由に参加できることを前提にしているわけですが、おたがいの間の信用を基礎(きそ)にして成立する贈与(ぞうよ)交換(こうかん)の世界とは、まさにそれが何らかの意味で閉じていることを必要とするのです。たとえば、科学的な情報や知識が、贈与(ぞうよ)的な原理によってインターネット上をタダで自由に行き来していくと、それが誰(だれ)でも参加できるインターネット上であるが故に、それを欲しがる人間を増やしてしまい、そのなかにはもちろん信用のない人間も当然含ま(ふく )れますから、自らの基盤(きばん)である信用に基づくコミュニティを破壊(はかい)してしまうことになる。インターネットがこれだけ拡大してしまうと、今度は、贈与(ぞうよ)的な世界を維持(いじ)しようとする人びとは、インターネットから離れ(はな )た小さなネットワークを作ったり、あるいはもっと皮肉なことに、自分たちのかたきである暗号システムを使ってインターネット上に閉じたコミュニティを作ることになるかもしれない。

 (岩井(いわい)克人(かつと)(インタヴュー() 上野俊哉(としや))『インターネット資本主義と貨幣(かへい)』より抜粋(ばっすい)、調整)