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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
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 はじかれたように、ぼくはふすまに手をかけた。一気にひきあけると、廊下(ろうか)にとびだした。
 でも、やっぱりそこには、だれもいないのだ。それなのに、だれもいない廊下(ろうか)を、小さな足音だけが、ゆっくりと遠ざかっていく。
 ぼくの体の中に、大きな恐怖(きょうふ)がふくれあがってきた。その恐怖(きょうふ)が、悲鳴になって口からあふれでそうになったとき、表座敷(おもてざしき)に通じる廊下(ろうか)の角を曲がって、ひょいと、いとこの昌一(しょういち)が姿(すがた)をあらわした。
「よお。しげちゃん。」
 もし、昌一(しょういち)のそういう声をきかなかったら、まちがいなくぼくは叫ん(さけ )でいただろう。だって、中学生の昌一(しょういち)の頭は坊主(ぼうず)刈り(が )で、おまけにその日昌一(しょういち)は、中学校の制服(せいふく)の白い開襟(かいきん)シャツと黒い学生ズボンをはいていたものだから、ぼくにはまるで、さっきの男の子が急に大きくなって、またそこにあらわれたような気がしたのだ。
「よお。」
 立ちすくむぼくに向かってもう一度声をかけながら、昌一(しょういち)が近づいてきた。いつも無愛想な顔にせいいっぱい愛想のいい、照れたような笑いを浮かべ(う  )ている。
「昌(しょう)……ちゃん。」
 ぼくは、かすれたような声で、いとこの名を呼ん(よ )だ。
「い……今、だれかと、すれちがわなかった? 小さい……坊主(ぼうず)頭の男の子と……。」
 昌一(しょういち)は、ぎょっとしたようにうしろをふりむき、それから、きょろきょろとあたりをみまわし、ちょっと肩(かた)をすくめてみせた。
「いいや。だれとも……。なんや? それ。」
 ぼくの全身に、どっと冷たい汗(あせ)がふきだした。あの子は、この暗い廊下(ろうか)から、あとかたもなく消えうせてしまったのだ。
 それが、ぼくがぼっこにであった最初だった。
 ぼくは今でも、あの夜のことを思いだす。裏庭(うらにわ)の闇(やみ)の中で降る(ふ )ように花を散らしていた桜(さくら)を。長い廊下(ろうか)の天井(てんじょう)で、頼り(たよ )なくゆれていた電灯を。ぼくと昌一(しょういち)の間を埋め(う )ていた、あのなつかしいおばあちゃんの家のにおいを……。
 でも、そのときにはぼくはまだ、自分が本当にこの家で暮らす(く  )ことになるなんて思ってもいなかった。いつかまた、ぼっことであう日がくるとは考えもしなかった。
 それなのに、あのぼんやりとした春の夜、ぼくのまわりではもう、新しいなにかがうごきだそうとしていたのだ。


(富安(とみやす)陽子「ぼっこ」)