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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
※最初にログインをしてください。言葉の森の団体コードは、aaa001です。
※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
2.はじめに、音声入力を始めるのボタンを押してください。
3.音読が終わったら音声入力を止めるのボタンを押してください。
4.音声入力を止めたあと、結果を送信するのボタンを押してください。



 【1】何を読むかという前に、まず何はともあれ、夢中で読むという体験を一度味わう必要があります。読む対象はそれぞれの人によってことなりますが、とにかく面白く楽しい本であることが必要です。【2】そして一度読む楽しさを知ったら、あとは、この面白さの内容を次第に高めることが、楽しさを長つづきさせる秘訣(ひけつ)です。たとえば推理小説だけを読んでいると、最後にはせっかく面白かった本も、何となく空虚(くうきょ)な感じがしてきます。
 【3】一度読む楽しさを知った人は、あとは放っておいても、読書の本能ともいうべきものによって、自分にぴったりした本をもとめてゆくものです。また百冊の本のリストによって自分にふさわしい本を捜す(さが )ようになるのも、この時期です。【4】この時期になれば、百冊のリストを見ても恐れ(おそ )をなすどころか、逆に面白そうな本がこんなにならんでいてくれることに、ぞくぞくした楽しさを感じるようになるものです。ですから、読書の楽しさを知るということが、私たちが最初に体験しなければならないことになるのです。
 【5】ある人は訊ねる(たず  )かもしれません。「いまはテレビや映画や劇画によって読書以上の楽しみを味わえる時代なのに、なぜ古臭い(ふるくさ )読書などに執着(しゅうちゃく)するのですか」と。
 しかしテレビを見るのと本を読むのとは別々のことです。【6】テレビは私たちを自分の外へ引き出しますが、読書は自分の中へ引き戻し(ひ もど )ます。それに読書はいつどこででもできます。汽車の中でも、飛行機の中でも、昼でも、夜なかでも一冊の本さえあれば、自由に別世界に入りこむことができます。【7】同じ本でも、小説は劇画より、もっと自由自在に豊かに想像力の翼(つばさ)に乗って羽ばたくことができるのです。
 読書の楽しさの中で最大のものは、この自由感だということもできます。本の扉(とびら)を開けると、もう向こうはフランスだったり、江戸(えど)時代の日本だったり、幻想(げんそう)の世界だったりするわけですから。【8】そこでは、私たちの人生とは別の人生がはじまっています。別の人々と出会い、数奇(すうき)な運命をたどることができるのです。深い悲しみや喜びを味わうこともできますし、人生の裏面の赤裸(せきら)なすがたを見て戦慄(せんりつ)することもあります。私たちの魂(たましい)は地獄(じごく)を通り天国を通ります。【9】泣いている女にも会います。打ちひしがれた男にも出会います。幸福な人にも恋(こい)に悩む(なや )人にもぶつかります。私たちは思わぬ人生の寂し(さび )さや、孤独(こどく)感や、人々の愛を体験します。
 こうして一冊の本を読み終えたとき、私たちは読みはじめる前とは、別人になったように思えることがあります。【0】私は『罪と罰(ばつ)』を読んだとき、そんな気持ちを味わいました。しかしこうした経験は読書以外には絶対に味わえません。こうなると、読書は単なる楽しさから、もっと深いもっと複雑なものに変わってゆくことになります。
 読書の対象はこうして詩や小説から哲学(てつがく)や宗教へ、神話や心理学へ拡がってゆきます。しかし読書が生涯(しょうがい)を通じて私たちのそばにあるのは、それが何よりも楽しいことだからです。楽しくなければ何にもなりません。その証拠(しょうこ)には、何か無理をして勉強し、我慢(がまん)をして読書をしていた人は、目的を達すると、けろりと読書などしなくなるものです。
 私は自分でもスポーツが好きですし、映画もよく見るほうです。音楽なしでは一日もいられません。それでも、なお読書の楽しみを皆さん(みな  )に味わってほしいと思うのは、読書によって、そうしたスポーツや映画や音楽の楽しみが、一段と豊かになり深くなるものだからです。

(辻(つじ)邦生(くにお)『永遠の書架(しょか)にたちて』による)