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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
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 むかしぼくらは、学生で合宿していたころ、よく上野の動物園へ出かけていった。近かったし、ほかに遊びを持ってなかったし、二〜三枚の銀貨でみんなそろって遊べるので、よくいっしょにドヤドヤッと出かけていった。
 しかしぼくは、全体としての動物園をあまりすかなかった。第一、水禽(すいきん)のガアガアなきたてる声があまり愉快(ゆかい)でなかった。第二、広い動物園にいっぱいになってるケモノのにおいがたまらなかった。それがひどくからだを疲れ(つか )させた。らくだなどことにひどかった。ぼくがみんなといっしょによく出かけたのは主として山猫(やまねこ)を見ようためだった。
 山猫(やまねこ)めは全身まっ黒の毛に包まれて金いろの目をしていた。かれのしっぽはからだよりも長く、イザというときにはこん棒のようになるにちがいない一種特別のふくらみを見せていた。ぼくの知るかぎりかれは、おりの奥行き(おくゆ )の半分より前へは一度も出てこなかった。いつも奥(おく)の方にすわって、けっして人になれることがなかった。ぼくはかれに「ごろつき」の名を与え(あた )た。かれはぼくに、ごろつき、ニヒリスト、かっぱらい、海賊(かいぞく)等のことばを思い出させた。
 熊(くま)はおりの金棒につかまって臆面(おくめん)もなく芸当をして見せていた。虎(とら)は金いろのしま目をきらめかしておりのなかを行き来していた。それは落ちぶれた貴族のようにものあわれであったが、同時に落ちぶれた貴族のように浅ましい媚び(こ )を感じさせた。獅子(しし)ときては話にもならなかった。かれはすっかり食(くら)い肥(ふと)って、むかしのこともすっかり忘れはててしまい、ここでいつかかれをつかまえた人間どもから比較的(ひかくてき)よく待遇(たいぐう)されてることにいい気になってしまい、その「あてがいぶち」に満足しきっていた。鈍感(どんかん)になってしまったかれは、ここの動物園のなかでさえ自分を王様と考えてるように見えた。それは豚(ぶた)にも劣る(おと )ものだった。
 しかし山猫(やまねこ)めにそんなことはなかった。
 かれはまっ黒の顔をしてその金いろの目をピカピカ光らせていた。おりの暗い奥(おく)の方でそれは燐(りん)のように燃えていた。かれはけっして人前で歩いて見せたりはしなかった。こんなところへ押し込め(お こ )になっていてもいつもかれの国のことを考えていた。かるがると飛び、飛び越し(と こ )、全力でかみ、思う存分血を流すかれの国でそれができないくらいなら、そんなところでたとえそれをすることから肉の一片(ひときれ)を手に入れることができるとしても、そんなことのまねをする必要はないと考えていた。虎(とら)や獅子(しし)や大蛇(だいじゃ)なぞがこんなばかものになってしまったとすれば、やつらがそんなに堕落(だらく)してしまったというその一事のためにもがんばらなければならないと考えていた。かれは本能的に捨て身にかかっていた。それでかれのおりは一種のうすっ気味悪さで見る人に襲いかかっ(おそ    )た。それで人びとはかれのおりの前にあまり長く立ちどまらず、なるべく黙殺(もくさつ)する方針をとり、果ては知らず識らず黙殺(もくさつ)して、とうとうそのことに平気になってしまっていた。

(中野重治『山猫(やまねこ)その他』)