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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
※最初にログインをしてください。言葉の森の団体コードは、aaa001です。
※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
2.はじめに、音声入力を始めるのボタンを押してください。
3.音読が終わったら音声入力を止めるのボタンを押してください。
4.音声入力を止めたあと、結果を送信するのボタンを押してください。



 【1】文章を読んでいて、いっていることが全面的に肯定(こうてい)されるのではない、また、当面必要なことでもないけれども、じっとしていられないような興奮を覚えることがあって、そういうとき、「刺激(しげき)的」という形容詞が使われる。【2】「刺激(しげき)的」とはどういうことか。
 かりに、本を円周のようなものだと考えてみる。読者はゆっくりその円に添っ(そ )て走り出す。だんだん速度が加わってくると、はじめのように円に即し(そく )ているのが困難になり、カーヴ()では外へ飛び出そうとするかもしれない。
 【3】「刺激(しげき)的」とは、そういうカーヴ()をたくさんもった本ということになろう。
 読者が予期するようなところへ展開するなら、快感はあっても、刺激(しげき)はすくない。【4】逆に、読者の意表をつくようなことがつぎつぎあらわれると、読者はその都度、タンジェントの方向へ飛び出そうとして、そこに緊張(きんちょう)をかもし出す。それが刺激(しげき)的と感じられる。
 脱線(だっせん)しかけるときに創造のエネルギーが生まれる。【5】直線レールの上を静かにおとなしく走っていれば脱線(だっせん)の危険もないかわり、軌道(きどう)の外へ出たくても出られない。無理なカーヴ()を大きなスピードで走り抜けよ(はし ぬ  )うとすれば脱線(だっせん)するかもしれないが、そこに、新しい道のできるチャンスもある。【6】安全な軌道(きどう)を選ぶか、危険なカーヴ()の多い道を選ぶかは好みにもよるが、発見に便利なのは脱線(だっせん)の可能性の大きなルートを走ることである。
 かりに大きなカーヴ()があってもスピードがなければ脱線(だっせん)しない。【7】安全運転だけを目標とするのなら、脱線(だっせん)しないのは喜ぶべきことだが、新しい道をつくるには、軌道(きどう)の上だけ走っていたのでは話にならない。無理なカーヴ()なら脱線(だっせん)して、より合理的な近道を発見することができるはずである。【8】脱線(だっせん)するにはスピードを出している必要がある。これは自動車の運転とは違う(ちが )。
 寝(ね)ころがって読んだときに、たいへんおもしろいと思ったから、ひとつ本腰(ほんごし)を入れて読んで何かまとめてみようか、などと考えて机に向かって読むとさっぱりおもしろくなくなってしまう。【9】そういう経験はすくなくない。やはり、読む速度が関係しているように思われる。さっと読んだときは、適当に脱線(だっせん)して、勝手なことを想像しながら読む。ところどころで自分の考えを触発(しょくはつ)される。それが「おもしろい」という印象になっている。【0】ていねいに読めばいっそうおもしろくなるように考えるのは誤解で、スピードにともなうスリルが消えると、さっぱり刺激(しげき)的でなくなってしまうのである。(中略)
 大きな木の下には草も育たない、という。大木はすばらしい。寄らば大樹のかげ、という言葉もあるくらいである。近づきたいと思うのは人情であろう。すぐれた本も大木のようなところがある。その下に立っては手も足も出ないで、ただ、大著名著であることを賛嘆(さんたん)するにとどまる。大木は遠くから仰ぎ(あお )見るべきものと思って、早くその根もとから離れる(はな  )必要がある。
 これは本だけではなく、すぐれた指導者についてもいいうる。すぐれた影響(えいきょう)力をもっている点にのみ着目していると、そのために個性を失った人間が育つ危険を見落しがちになる。亜流(ありゅう)になりたくなかったら、敬遠して影響(えいきょう)を受ける必要がある。それを勘違い(かんちが )して、すぐれた先生にはなるべく近づきたいという気持ちにひかれて、せっかくの師の薫陶(くんとう)を台なしにしてしまうことが、いかにしばしば起こっていることであろうか。すぐれた師匠(ししょう)の門下にかならずしも偉才(いさい)傑物(けつぶつ)ばかりが輩出(はいしゅつ)するとは限らないのは、大木の枝の下で毒されて伸びる(の  )べきものまで伸び(の )ないでしまうからであろう。だいいち、門下という言葉からして感心しない。心ある門弟はあえて門外に立つ勇気がいる。
 圧倒(あっとう)されそうな影響(えいきょう)をもっているものには不用意に近づかないことである。近づいてもながく付き合いすぎてはいけない。

(外山(とやま)滋比古(しげひこ)「知的創造のヒント」による。)