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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
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3.音読が終わったら音声入力を止めるのボタンを押してください。
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「ゆたかみーつけっ。真理子みーつけっ」 
 ひろしがさけび、みんないっせいに走りだした。駐車(ちゅうしゃ)場をとびだすと空気がうす青く、もう夕方がはじまっている。わーっという歓声(かんせい)があがり、ひろしがカンをけって、今度はゆたかが鬼(おに)になる。 
 カポーン。あちこちへこんだあきカンが、まのぬけた音をたててもう一度けられ、鬼(おに)をのこしてみんなかけだした。時夫(ときお)は、T字路まで走って思い出したように立ちどまり、くるっとうしろをふりむいた。 
「やっぱり」 
 やっぱり、だった。青屋根のたてものの窓(まど)から、きょうもおばあさんが見ている。青屋根のたてものは、そこからへい一つへだてたキャベツ畑のむこうにあった。 
「オレ、ぬける」 
 ぽつんと言って、時夫(ときお)はへいによじのぼると、ひょいととびおりた。ほこっと土のにおいがする。 
「おい。どこ行くんだ。養老(ようろう)院だぞ」 
 背中(せなか)ごしにゆたかの声がした。その青屋根には、ボケてしまった老人(ろうじん)がたくさんいるので、子供(こども)たちはこわがってちかよらないのだ。若い(わか )女の人の血をすって生きているおばあさんがいるとか、子供(こども)の肉でつくったハンバーグが大好物(こうぶつ)のおじいさんがいるとか、いろんなうわさがあった。 
 この養老(ようろう)院では週に一度、老人(ろうじん)たちに看護婦(かんごふ)さんが何人かつきそって、散歩(さんぽ)に行くことになっていた。時夫(ときお)とおばあさんが出会ったのも、そんな散歩(さんぽ)の時だった。もう一ヵ月(かげつ)ほど前になるだろうか。川ぞいの道でお父さんとキャッチボールをしている時夫(ときお)を、おばあさんは土手からながめていた。 
「行くぞ、時夫(ときお)」 
 お父さんがそう言ったとき、やおら立ち上がったおばあさんはとつぜん、大きな声でこう言ったのだ。 
「あんた、トキオ、いうんか。わたしはトキ、いうんじゃよ」 
 びっくりするほどしっかりした足どりで、つかつかとちかづいてきたおばあさんは背(せ)がひくく、日にやけて、やせていた。 
「友達(ともだち)に、なってくれるかの」 
 おばあさんは破顔一笑(はがんいっしょう)、そう言った。 
 それから毎日、おばあさんは窓(まど)から時夫(ときお)を見つめていたのだ。あそびに来てほしいのかもしれない、時夫(ときお)は何度もそう思ったが、その勇気(ゆうき)はなかった。キャベツ畑のむこうの青屋根といえば、子供(こども)たちにとって、おばけ屋敷(やしき)もおんなじだったのだ。 
 けれども、もう決心した。時夫(ときお)はぐっと胸(むね)をはり、キャベツ畑のまん中の細い小道を、どんどん歩いていく。 
「もどってこいよ。鬼ばば(おに  )あがいるぞ。」 
「ハンバーグにされちゃうから」 
 みんなの声が、うしろからきこえていた。 
 小さな玄関(げんかん)を入り、病院のような待ち合い室をぬけると階段(かいだん)があり、窓(まど)を目印(めじるし)にいくと、おばあさんの部屋はすぐにわかった。色あせた畳(たたみ)の上に冷蔵庫(れいぞうこ)とテレビがおいてある。時夫(ときお)は帽子(ぼうし)をとっておじぎをした。 
「待っとったよ。これはルームメイトのゆりこさんに、げんさんに、ひさしさん。これは私(わたし)の友達(ともだち)のトキオ」 
 おばあさんはじゅんぐりに紹介(しょうかい)し、冷蔵庫(れいぞうこ)からジュースをだしてくれた。おばあさんが「ルームメイト」という言葉を使ったのが、なんとなくおかしくて、時夫(ときお)は心の中でくすっと笑い(わら )、緊張(きんちょう)が、するっとほどけた。 
「毎日毎日、カンけりしとったなあ」 
 おばあさんが言って、 
「トキさんはまた、それを毎日毎日、見とったなあ」 
 ひさしさんが言った。ひさしさんは白髪(しらが)頭を短く刈っ(か )た、色白のおじいさんだ。 
「見ていると、私(わたし)もいっしょに遊んでいるような気がしおってね」 
 おばあさんははずかしそうに笑う(わら )のだった。
 ゆりこさんと呼ば(よ )れたおばあさんは長い髪(かみ)を左がわでおさげに編ん(あ )で、白い浴衣(ゆかた)を着ていた。部屋のすみの赤い座布団(ざぶとん)の上にすわって、一心にお手玉している。時夫(ときお)の視線(しせん)に気がつくと、しずかに、ふわっと笑っ(わら )た。小さな、白い、あどけない顔だった。 
「アイスクリームがあるからおあがり。あんたのために買うといたに」 
 おばあさんが言った。紙のカップに入ったバニラアイスはかちかちにかたまって、冷蔵庫(れいぞうこ)のにおいがついていた。ずいぶん前から買ってあったんだな。時夫(ときお)はそう思いながら、さっきから窓(まど)のそばでたばこをすっている、げんさんというおじいさんの横顔をちらりと見た。むっつりして、少しこわい横顔だった。 
「テレビ、みようか。そろそろ大乃()国がでるころだな」 
 ひさしさんが言った。 
「大乃()国? だめだめすもうは桝田(ますだ)山だよ」 
「おっ、しぶ好み(この )だな」 
 おすもう好き(す )のひさしさんと、やっぱりおすもう好き(す )の時夫(ときお)とはすっかり意気投合し、ハンバーグなんてうそばっかり、と、時夫(ときお)は心の中でつぶやいた。 

(江國(えくに)香織(かおり)「つめたいよるに」)