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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
2.はじめに、音声入力を始めるのボタンを押してください。
3.音読が終わったら音声入力を止めるのボタンを押してください。
4.音声入力を止めたあと、結果を送信するのボタンを押してください。



 【1】次の朝早く、海蔵(かいぞう)さんは、また地主の家へ出かけていきました。門をはいると、昨日(きのう)より力のない、ひきつるようなしゃっくりの声が聞こえてきました。だいぶ地主の体がよわったことがわかりました。
【2】「あんたは、また来ましたね。親父はまだ生きていますよ。」
と、出てきた息子さんがいいました。
「いえ、わしは、親父さんが生きておいでのうちに、ぜひおあいしたいので。」
と、海蔵(かいぞう)さんはいいました。
 【3】老人(ろうじん)はやつれて寝(ね)ていました。海蔵(かいぞう)さんは、枕(まくら)もとに両手をついて、
「わしは、あやまりにまいりました。昨日(きのう)、わしはここから帰るとき、息子さんから、あなたが死ねば息子さんが井戸(いど)を許し(ゆる )てくれるときいて、悪い心になりました。【4】もうじき、あなたが死ぬからいいなどと、恐ろしい(おそ   )ことを平気で思っていました。つまり、わしはじぶんの井戸(いど)のことばかり考えて、あなたの死ぬことを待ちねがうというような、鬼(おに)にもひとしい心になりました。【5】そこで、わしはあやまりにまいりました。井戸(いど)のことは、もうお願い( ねが )しません。またどこか、ほかの場所をさがすとします。ですから、あなたはどうぞ、死なないでください。」
といいました。
 【6】老人(ろうじん)は黙っ(だま )てきいていました。それから長いあいだ黙っ(だま )て海蔵(かいぞう)さんの顔を見上げていました。
「お前さんは、感心なおひとじゃ。」
と、老人(ろうじん)はやっと口を切っていいました。
【7】「お前さんは、心のええおひとじゃ、わしは長い生涯(しょうがい)じぶんの欲(よく)ばかりで、ひとのことなどちっとも思わずに生きてきたが、今はじめてお前さんのりっぱな心にうごかされた。お前さんのような人は、いまどき珍しい(めずら  )。【8】それじゃ、あそこへ井戸(いど)を掘(ほ)らしてあげよう。どんな井戸(いど)でも掘(ほ)りなさい。もし掘(ほ)って水が出なかったら、どこにでもお前さんの好き(す )なところに掘(ほ)らしてあげよう。あのへんは、みなわしの土地だから。【9】うん、そうして、井戸(いど)を掘(ほ)る費用(ひよう)がたりなかったら、いくらでもわしが出してあげよう。わしは明日にも死ぬかもしれんから、このことを遺言(ゆいごん)しておいてあげよう。」
 海蔵(かいぞう)さんは、思いがけない言葉をきいて、返事のしようもありませんでした。【0】だが、死ぬまえに、この一人の欲ばり(よく  )の老人(ろうじん)が、よい心になったのは、海蔵(かいぞう)さんにもうれしいことでありました。

(新美南吉(なんきち)著(ちょ) 「牛をつないだ椿(つばき)の木」より)