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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
※最初にログインをしてください。言葉の森の団体コードは、aaa001です。
※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
2.はじめに、音声入力を始めるのボタンを押してください。
3.音読が終わったら音声入力を止めるのボタンを押してください。
4.音声入力を止めたあと、結果を送信するのボタンを押してください。



【1】「くッくッくッ。」
とかしらは、笑い(わら )が腹の中(はら うち)からこみあげてくるのが、とまりませんでした。
「これで弟子たちに自慢(じまん)ができるて。きさまたちが、ばかづらさげて、村の中をあるいているあいだに、わしはもう牛の仔(こ)をいっぴき盗ん(ぬす )だ、といって。」
 【2】そしてまた、くッくッくッと笑い(わら )ました。あんまり笑っ(わら )たので、こんどは涙(なみだ)が出てきました。
「ああ、おかしい。あんまり笑っ(わら )たんで涙(なみだ)が出てきやがった。」
 ところが、その涙(なみだ)が、流れて流れてとまらないのでありました。
【3】「いや、はや、これはどうしたことだい、わしが涙(なみだ)を流すなんて、これじゃ、まるで泣い(な )てるのと同じじゃないか。」
 そうです。ほんとうに、盗人(ぬすびと)のかしらは泣い(な )ていたのであります。――かしらは嬉しかっ(うれ   )たのです。【4】じぶんは今まで、人から冷たい(つめ  )眼(め)でばかり見られてきました。じぶんが通ると、人々はそら変(へん)なやつが来たといわんばかりに、窓(まど)をしめたり、すだれをおろしたりしました。【5】じぶんが声をかけると、笑い(わら )ながら話しあっていた人たちも、きゅうに仕事のことを思いだしたように向こうをむいてしまうのでありました。【6】池の面(おもて)にうかんでいる鯉(こい)でさえも、じぶんが岸に立つと、がばッと体をひるがえしてしずんでいくのでありました。あるとき猿回し(さるまわ )の背中(せなか)に負われている猿(さる)に、柿(かき)の実をくれてやったら、一口もたべずに地べたにすててしまいました。【7】みんながじぶんを嫌っ(きら )ていたのです。みんながじぶんを信用(しんよう)してはくれなかったのです。ところが、この草鞋(わらじ)をはいた子どもは、盗人(ぬすびと)であるじぶんに牛の仔(こ)をあずけてくれました。じぶんをいい人間であると思ってくれたのでした。【8】またこの仔(こ)牛も、じぶんをちっともいやがらずおとなしくしております。じぶんが母牛ででもあるかのように、そばにすりよっています。子どもも仔(こ)牛も、じぶんを信用(しんよう)しているのです。こんなことは、盗人(ぬすびと)のじぶんには、はじめてのことであります。【9】人に信用(しんよう)されるというのは、なんといううれしいことでありましょう。……
 そこで、かしらはいま、美しい心になっているのでありました。子どものころにはそういう心になったことがありましたが、あれから長い間、わるい汚い(きたな )心でずっといたのです。【0】久しぶり(ひさ   )でかしらは美しい心になりました。これはちょうど、垢(あか)まみれの汚い(きたな )着物を、きゅうに晴れ着にきせかえられたように、奇妙(きみょう)なぐあいでありました。
 かしらの眼(め)から涙(なみだ)が流れてとまらないのはそういうわけなのでした。

(新美南吉(なんきち)著(ちょ) 「花のき村と盗人(ぬすびと)たち」より)