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音読検定
 楽しくできる音読で、読む力、考える力が育つ。
 音読検定

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2026/9/22

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 【1】音楽といえば、それはハニホヘトイロで育った私たちの世代に最も縁遠いえんどお ものの一つで、もの言う資格などなきに等しいのだが、それでも、私自身、ビートルズのことでめずらしい経験をしたことがある。【2】十数年前、ビートルズが熱狂ねっきょう的に迎えむか られはじめたころ、元来が野次馬なものだから、それではひとつと片っぱしからレコードを買いこんで鳴らしてはみたものの、音楽評論家たちの力説する良さがいっこうに理解できない。【3】それ以前にジャズやロックンロールなどに親しんでいたわけではないから、その音楽性のどこがどう革命的なのか、わかるはずもないし。【4】それがある日、ホリリッジ・ストリングスの演奏するビートルズのイージー・リスニング・ナンバーのレコードを耳にしたとたん、なんときれいな曲なんだろうと思わずうっとりした。【5】澄明ちょうめいにして華麗かれい巧緻こうちにして清新、わが耳を疑うとはこのことかといいたい体験だった。以来、私はビートルズのひそかなファンでありつづけている。
 【6】ヴォーカル抜きぬ のイージー・リスニングだなんて、今だと頼りたよ なくて聞いていられないだろうけれど、少なくとも音楽音痴おんちの私にとって、この一枚のレコードは、世界のビートルズを私自身のビートルズに変えた、奇蹟きせき的なレコードだった。
 【7】「一瞬いっしゅん閃きひらめ 」による理解。それは、読書についても、もとより例外ではあり得ない。が、生まれついての天才は別として、この閃きひらめ を体験するためには、やはり相応の試行錯誤しこうさくご歳月さいげつが要る。【8】さまざまなジャンルの、さまざまな作者の、さまざまな作品に当りながら、しかし、どの作品が上等で楽しく、どの作品がくだらなくて反古ほごにひとしいと、それがわかって読んでいるのか、疑ってかかる月日が要る。【9】名ある評家の推輓すいばんや、世間になんとなく流布るふしている評判を自分自身の下した評価と勘違いかんちが して読んでいるだけのことではないかと気をもんですごす時日じじつが要る。
 【0】もっとも、読書一般いっぱんについていう場合、水泳や数学や音楽などと違っちが て「一瞬いっしゅん閃きひらめ 」は大げさかもしれない。ある作品を読んでほかの本からはかつて受けたことのない一種新鮮しんせんな印象を得、この体験を基準として読んでいけばいいのだなと深くうなずく、そんなふうに考えたほうが実態に沿っているだろうか。が、いずれにせよ、試行錯誤しこうさくごをくりかえすことをいとわず、疑ってかかる姿勢を失わずにいるかぎり、そういう瞬間しゅんかんはいつかやってくるということは十分に期待できる。もちろん、人によってその瞬間しゅんかんを感じることの強弱遅速ちそくはあるだろうが、それは仕方がない。人間の感受性というのはもともと不平等にできているのである。
 いったんこうした読書のコツを会得えとくした以上は、あとはもう一気呵成いっきかせい、読むに値する本が次から次へと見つかってきて、読書が楽しくてしようがなくなる。山本夏彦なつひこふうにいえば、くだらない本を読んでさえ、それを罵倒ばとうするという楽しみが加わる。見かけばかりご大層で内実はいたって貧しく退屈たいくつな本を、どんな義理があるのか知らないが、無責任に天下の名著と持ちあげる評論家を嘲笑ちょうしょうするという楽しみも。
 それだけではない、かつてやみくもに読み散らしてはくりかえした試行錯誤しこうさくご、これが思いがけず役に立つのである。系統発生図というか、ものの良し悪しを弁別する見取図のようなものが、読書のかなめをおさえたと知った瞬間しゅんかん脳裡のうりに成立し、今後の本の読み方についてのまたとないコンパスとなるからである。
 世間は広いから、たった一冊の本を読んだだけでチカッと閃くひらめ という人もいないとはかぎらない。が、それは、初めて本を読んですべてがわかったと思いこむ子供のようなもので、それ以前の蓄積ちくせきがゼロだから、本の世界についての正負さまざまの方向をもった地図を作りあげることができず、かえってその後の読書に難渋なんじゅうし、モームのいう「ひまつぶし」を楽しむ機会がより少ないということもまたありうる。なにごとにもプラスとマイナスがある。こと読書に関しては、神童や天才をうらやむにはあたらない。

 (向井敏贅沢ぜいたくな読書』による)