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音読の丘
 音読で、読む力、書く力が育つ。
 オンドリくんの 音読の丘
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※音読の丘は、家庭での音読の練習用として使ってください。
1.音読する文章が2つある場合は、最初の方の文章を音読してください。
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 杉野(すぎの)君は、洋反物株式会社梶(かじ)万商店の反物を、遠く地方の呉服(ごふく)店に卸し(おろ )歩く出張員になったばかりの青年である。初めての出張は出足からうまくゆかず、さんざんな売り上げであった。そして、きょうの目的地はG町――。この旅の最後の日程である。
 G町に着いたころはもう一尺先も見えぬ吹雪(ふぶき)であった。鈴(すず)をつけた馬、がたがたの箱馬車、雪止めの新しい莚(むしろ)、そんなものが雑然と並んでいる駅前で、杉野(すぎの)君はぼう然と立ちつくしてしまった。土地の人々は自然に柔順(じゅうじゅん)な人たちのみの持つ敬虔(けいけん)さで、ただ黙々と(もくもく )動いていた。
 杉野(すぎの)君はまるで吹雪(ふぶき)に吹き(ふ )こまれた人間のように、近江(おうみ)呉服(ごふく)店へ転がりこんだ。店には誰(だれ)もいず、黒々と古風にくすんだ店構えがしんと静まりかえっていた。囲炉裡(いろり)に火が赤々と燃え、鉄瓶(てつびん)からは白い湯気が暖かそうに立っていた。杉野(すぎの)君は雪を払い(はら )ながら、何かほっと安堵(あんど)した気持ちになっていった。ふと顔を上げると、奥(おく)の帳場に一人の少女が手に雑誌を持ったままこちらを向いてほほえんでいた。えくぼが白い花のように美しかった。
「あの、東京の梶(かじ)万でございますが。」
 杉野(すぎの)君ははっとしてお辞儀( じぎ)をした。少女も学校でするように丁寧(ていねい)に頭を下げると、そのままばたばた奥(おく)の方へ走って行った。裾(すそ)の短い着物の下にすっくりと伸び(の )た白い脚(あし)、そうしておさげに結んだ赤いりぼんが、蝶々(ちょうちょう)のように奥(おく)へ飛んで行った後を、杉野(すぎの)君は夢のようにじっと見送っていた。
「ほうほう。それははあ。」
 そこへ主人がそう言いながら、煙草(たばこ)盆(ぼん)を提げて出てきた。
「ひどい雪ではあ。さあ寒い時は火のそばがいちばんす。」と、炉辺(ろばた)にすわりながら、煙管(きせる)で煙草(たばこ)を吸うのだった。杉野(すぎの)君も挨拶(あいさつ)をしてすわった。
「こうぞ、こうぞ。」
 主人は突然(とつぜん)大声で小僧(こぞう)を呼び、
「座布団こさ持ってこ。」と命じるのだった。杉野(すぎの)君は囲炉裡(いろり)にこころもち手をさしだしながら、まぶたのなぜか熱くなるのを覚えた。
「ここへは初めてだべ。この雪こはあ驚き(おどろ )なすっただべのう。」
「何もかも初めてでして。」
 杉野(すぎの)君は訴える(うった  )ように、種々の思いをこめてそう言った。
「ほうほう。よく来なすった。」
 そこへ先刻の少女がにこにこ笑いながら、お茶を持ってきた。
「これが娘(むすめ)っ子ではあ、道ちゃ、お辞儀( じぎ)はあしなすったべのう。」
 少女はくくっと笑ったまま、またぱたぱたと奥(おく)へ走って行ってしまった。白い額、黒々としたつぶらな瞳(ひとみ)、そうしてまた白い花のようなえくぼだった。杉野(すぎの)君は自分までが何かにこにこと今は心楽しかった。
「ひとつうんとやってください。」と元気よく言い、例のようにまずモスの見本を開いた。
「ほう。この朱(しゅ)ははあよくできたっす。」
 主人は見本を手にすると、いきなりさも感じ入ったように呟い(つぶや )た。

(外村(とのむら)繁(しげる)「鵜(う)の物語」)