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音読検定
 楽しくできる音読で、読む力、考える力が育つ。
 音読検定

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2026/9/22

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 【1】一流ホテルの、いかにも「一流でござい」というロビーに、たいていこうした男女の一群がたむろしているのは、そうでないとどうしていいかわからない客がいると考え、ホテル側があらかじめそれ専門の「仕出し屋」に頼んたの で用意しておく場合が多いからである。【2】当然、経費もかかるが、ロビーを利用する客にランクの最上位にある「待ちあわせ場所」としてふさわしい体験をしてもらうことはホテル側としても望ましいことであるし、これにはちょっとした教育効果もある。【3】つまり、彼等かれらがあまり傍若無人ぼうじゃくぶじん振る舞いふ ま 及ぶおよ と、ボーイが近づいて行って「周囲のお客様が迷惑めいわくをいたしますから」と、それとなく注意をするのを見かけるであろう。あれは、そうすることによって「周囲の客」の方が、「ははあ、ホテルのロビーであんなことをしてはいけないんだな」と学ぶことを、期待しているのである。
 【4】もちろん、くり返しそこで待ちあわせをし経験を積むと、もう、そうした騒がしいさわ   男女の一群がかたわらにいなくとも、何とかそれらしくそこに座っていられるようになる。【5】しかし、ホテルのロビーは、おくが深い。ある日、かれもしくは彼女かのじょは、近くに座っていた若い女性がちらりと指をあげ寄ってきたボーイに「お手洗いはどちら」と聞き、「あのエレベーターのおくにございます」と言わせてから、「ありがとう」とハンドバッグを持って立ち上がるのを見る。【6】「なるほど、そうなんだ」というわけだ。なぜなら、それまでかれもしくは彼女かのじょは、自ら立ってボーイに近づき、時には向こうに行くボーイに走って追いつき、「ねえ、トイレはどこ」と聞いていたからである。
 【7】ホテルのロビーでは「ボーイにむこうからやって来させる」のでなければいけない。それが一流ホテルのロビーを利用する、一流の客のやり方なのだ。そこで、次の日から早速これを試みることになるのだが、簡単なようでこれがなかなかできない。【8】指をちらりと持ち上げた程度では、ボーイなんか来てくれやしないのだ。しかし、飲み屋でおねえちゃんに焼き鳥を頼むたの のではないから、「おーい」と叫んさけ だり、パチパチと手をたたいたりするわけにはいかない。【9】ロビーに入ってきた時に、あらかじめボーイに注目させておき、その一挙手一投足に意味を持たせておいて、タイミングよくちらりとやらないと、これは空を切る。
 ただし、難しいだけにこれが成功した時の感動は、えも言われない。【0】ホテルのロビーにいることの、奥儀おうぎに達したのだという気がするのである。そして、教えられた通りトイレに入って、洗った手をぬぐいながら出てくると、そこに、くだんのボーイが立っている。「お客さま」と、かれが言うのである。「お客さまこそ、ホテルのロビーを利用なさるにふさわしい方とお見受けいたしました。ついては明日より、失礼ながら日当をお払いはら 致しいた ますので、当ホテルのためにロビーに座っていただけませんでしょうか。他の、まだホテルのロビーになれないお客さまのための、模範もはんになっていただきたいと存じますので……」
 つまり、ホテルのロビーにいる「どうしようもない田舎者」と、「これこそが都会人」と思えるものは、双方そうほうともホテル側の「雇わやと れ」なのだ。その間をキョロキョロしながらうろつきそれぞれから何ごとかを学ぼうとしているのが、本来の客ということになる。もちろん、学び終わって「田舎者」度がすっかり払いはら 落とされると、ボーイがやってきて雇っやと てくれる。

(別役実『都市の鑑賞かんしょう法』による)