森の長文/読解マラソン長文  ●文章類似度判定


 命を救った犬ぞり τ
 シベリアやアラスカといった、とても寒さの厳しい地方で暮らす人々は、古くから、人や物を運ぶために、犬ぞりを使ってきました。シベリアン・ハスキーやサモエド、アラスカン・マラミュートといった種類の、寒さに強く、力持ちの犬たちにそりを引かせるのです。これらの犬たちは、ふさふさした毛と皮膚の下に脂肪を持っているため、北極の氷の上で眠っても平気です。また、長い距離を走っても耐えられる、すぐれた体力の持ち主です。
 なかでもハスキー犬は、探検家ピアリーやアムンゼンによる北極や南極探検に使われ有名になりました。また、アラスカで人気が高かったドッグレースや犬ぞりレースで、優秀な成績を収めていました。
 一九二五年、アラスカのノームの町に、ジフテリアという恐ろしい病気がはやりました。現在では多くの国で予防接種が行われていますので、ほとんど流行することはありません。しかし、当時はまだ、おおぜいの人が死ぬこともある怖い病気でした。ジフテリアの症状を抑えるには、ワクチンという薬が必要ですが、この時ノームの町では、ワクチンが底をついてしまいました。あまりに患者が多かったからです。このままでは、人々がどんどん死んでしまいます。
 ノームの町からアラスカ州の政府があるアンカレジに、助けを求める連絡が入りました。すぐにでも、ワクチンを送らなければなりません。しかし、その時その地方はとても天気が悪く、猛吹雪が続き、飛行機を飛ばすことができません。自動車でさえ、走れないようなひどい嵐です。
 「そうだ。犬ぞりで運ぼう。」州政府は、そう決断しました。そして、すぐさま、村々に連絡が行きました。そして、二十の犬ぞりチームが、ワクチンを届けるために準備をしました。
 外は、マイナス50度にもなる厳しい寒さと、荒れ狂う吹雪です。この中を、ネナナという町からノームまで、五四四キロ、この二十の犬ぞりチームは、次々とワクチンを手渡していきました。そして、五日間あまり、合計一二七時間をかけて走り通し、ついにワクチンは無事にノームにとどいたのです。おかげで、数百人の命が救われました。
 この時の働きをたたえて、ハスキー犬の銅像が、ニューヨークのセントラル・パークに建てられています。また、このできごとを記念して、一九七三年から毎年、世界で一番難しく、一番長い犬ぞりレースがアラスカで行われるようになりました。このレースは、アンカレジからノームまで、なんと一六八八キロメートルもの距離を、人間一人と犬たち十数匹で走るレースです。ふつう、ゴールするのに三週間くらいかかるそうです。しかし、このレースの最高記録は、二〇〇〇年にダグ・スウィングレイという人が記録した九日間〇時間五八分〇六秒だというから驚きです。
 犬たちのがんばりも相当なものですが、人間の根性もたいしたものですね。こんなに大変なレースの後では、犬たちに号令をかけ続けた人間の声もしわがれて、きっと「ハスキー・ボイス」になってしまっていたことでしょう。