森の長文/読解マラソン長文  ●文章類似度判定


 アリの結婚式 Κ
 初夏のある日の午後、巣穴のまわりに多数のアリがいそがしそうに群がっています。クロオオアリです。みんな大変こうふんしています。よく見ると、その中にハチにそっくりの羽のある大きなアリがまじっています。さらに気をつけてみると、この羽のあるアリには大小二つの型があるようです。やがて羽のあるアリは、次々に大空へ羽ばたいていきます。大多数のアリには羽がないのに、大空を飛びたっていった羽のあるアリたちはいったい何者なのでしょうか。何のためにとびったのでしょうか。
 この羽のあるアリは羽アリとよばれ、大きいほうがメス、小さいほうがオスです。そして、大空へ飛びたっていったのは、メスの羽アリにとってはおむこさん探し、オスの羽アリはおよめさん探しの出発なのです。このような羽アリの旅を結婚飛行といいます。
 この結婚飛行の時期は、アリの種類によってきまっていて、そのときには同じ地域のたくさんの巣からいっせいに羽アリが飛び出していきます。たとえば日本の中部では、クロナガアリが四月下旬、クロヤマアリが五月中旬、キイロシリアゲアリが九月です。
 大空に飛び出した羽アリたちはメスオス入りみだれて飛びつづけます。そして、飛びながらオスはメスと交尾します。うまく交尾したメスアリは、やがて地上におりて自分で自分の羽を切り落とします。これは母親になる準備です。そして、巣場所を求めてさまよい歩き、やがて適当な場所が見つかると、そこに産卵のための穴をほります。やがて巣が完成すると入り口を内側からしっかり閉めてこもります。
 交尾をすませたオスアリたちも地上にまいおりますが、結婚飛行でつかれ、じきに鳥や虫のエサとなってしまいます。
 ところで、メスアリにとってオスアリは結婚のときだけしか必要ありません。なぜなら、メスアリは一回交尾するだけでよく、そのときオスからもらった精子を、貯精のうというところにたくわえておくことができるからです。そして、メスは、たまごの受精にこの精子を次々つかっていくのです。
 巣の中にたった一匹でこもったメスは、やがて毎日ほぼ一個ずつたまごをうみます。たまごはメスアリにだきかかえられるように大事に守られ、二十五日ほどで幼虫になります。この間母アリはたまごにカビがはえないようにするためか、口でなめたりよく世話をします。母アリから口うつしでえさをもらい、大きくなった幼虫は十日あまりたつと、おしりの先から絹を出して、自分の体をつつむようにしてまゆをつくります。そして、まゆの中で脱皮してさなぎになります。さなぎは、もうアリの形をしています。
 二十五日ほどたつと、まゆからアリがかえります。このアリははたらきアリといい、羽はありません。体は大変小さく、母アリの半分以下ですが、元気にたいへんよくはたらくようになります。はたらきアリが十匹くらいになると、母アリははたらきアリからエサをもらうようになります。また、それ以降うまれたたまごは、はたらきアリに世話をされるようになります。
 母アリは、はたらきアリが巣の外に出てとってきたえさを食べて、どんどんたまごをうんでいきます。ふつう、たまごをうむのは集団の中で母アリ一匹だけなので、これを女王アリとよんでいます。女王アリとなった母アリの役割は、もはや生殖活動だけに限定されています。そして、女王アリの寿命は長く、条件がよければ十年以上も生きるといわれています。
 巣がまだ小さいうちにうまれた子どもたちは、大きくなってからもはたらきアリにしかなりませんが、ある程度以上巣が大きくなると、羽アリが適当な季節に生産されるようになり、アリの結婚飛行がはじまるのです。
 母が強いのは、アリの世界も、人間の世界も同じようです。