森の長文/読解マラソン長文  ●文章類似度判定


 塩の働き μ
「青菜に塩」ということわざを知っていますか? ほうれん草などの青い葉野菜に、塩をかけると急にしおれてしまうから、人が急に元気がなくなってしょんぼりする様子をたとえることわざになりました。いつもは元気な誰かさんが、はしゃぎ過ぎてお小言を言われた時などに使うと、ぴったりのことわざです。
 お母さんが、フライパンで青菜を炒めているところを見たことがあるでしょう。こぼれんばかりに山盛りになった青菜が、塩こしょうした瞬間にさっと減ってしまいます。まるで、お母さんが、目にも止まらぬ速さでつまみ食いしてしまったかと思うほどです。そこで「青菜は男に見せるな」ということわざも、できてしまったそうです。でも、お母さんは、こっそり食べてなんかいませんよ。魔法をつかっているわけでもありません。
 さて、この青菜に塩の魔法はどうして起こるのでしょうか。野菜は植物ですから、人間や動物と同じように、たくさんの細胞の集まりです。ひとつひとつの細胞を包んでいる細胞膜は水も塩も通すような膜になっているそうです。生きている細胞膜であれば細胞の中に入った塩をうまく細胞外に排泄する機能を持っています。 しかし、死んだ細胞の場合は、塩は細胞内にしみ込んだままになります。つまり塩味がしみ込んでいくのです。その一方で、細胞からは水が排出されます。水分がいっきに出されたことで、青菜のカサがへってしまったということなのです。この脱水作用をうまく利用したのが漬物です。たしかに漬物にされた野菜も、もとの大きさよりはるかにしおれて縮んでいます。
 私たち人間が健康に生きていくためにも、塩分のバランスが働いています。私たちの体の細胞とそれをつつむ液体の塩分濃度は、腎臓の働きで一定の濃度に保たれています。細胞の内と外との浸透圧が絶えず一定になっているために、細胞は同じ形同じ機能を保つことが出来ているのです。塩っ辛いものを食べた後は、のどが渇いてくるのもそのためです。また、夏の暑い日に熱射病にならないために、水分と塩分をとるように注意するのも同じ理由です。
 体の調子などがほど良い具合、加減であるとき「ああ、いいあんばいだ。」と言います。この「あんばい」に「塩梅」という漢字を使います。もとは梅酢と塩をあわせた調味料の味加減が良いものを「塩梅(えんばい)」と読んだところからきたそうです。浸透圧という科学の説明がつくよりはるか前から、塩加減が健康のバロメーターだと、人々は気付いていたのです。