長文集  5月1週  ★カーニヴァルの期間中(感)  nnza2-05-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2013/03/15 11:44:27
 【1】カーニヴァルの期間中、街の中心へ
と出向くための手段もまた祝祭的で意識的な
ものとなる。すなわち人々は、バスや市街電
車のなかで歌を歌い、踊り、サンバのリズム
に身体を動かしながら目的地に向かう。【2
】こうしたことが起こるのはカーニヴァルの
ために急に交通手段が改善されたからではも
ちろんなく、乗り物の内部空間までがカーニ
ヴァルの空間へと変質したことによるものな
のである。だから、バスや電車はもはや決め
られた時間に仕事場に着かねばならない労働
者によって占められてはいない。【3】そこ
に乗っている人々が目的地に着かないかぎり
、いかなる物事も始まらないのである。人々
でぎゅうぎゅう詰めになった公共の交通機関
による通勤という、都市の日常生活における
地獄のような苦痛の時間が、カーニヴァルの
あいだきわめて創造的な瞬間に変化する。【
4】この瞬間人々は笑いや冗談や身体の接触
を通じて、強烈な生感覚を味わうのである。
 カーニヴァルにおいては、場所の移動とい
う行為自体が、高度に遊戯化され、儀礼化さ
れた別種のリアリティとして民衆によって生
き直されていることを、こうした指摘は示し
ている。【5】不毛 で、苦痛だけが充満す
る日常的通勤行為が、いかに祝祭的な場に変
容しているかを、右の描写は見事に伝える。
(中略)∵
 ダ・マッタも指摘するように、ブラジルで
は、カーニヴァルのあいだにいかなることが
起きようと、それは「本気」(serio)
ではなく、一種の「遊び」「冗談」であると
いう一般的な信仰のようなものがある。【6
】しかしこの場合、それは冗談だから許され
る、とか、真面目でないから責任がない、と
いった、自己弁明的な理屈を保証するための
留保ではない。むしろ逆に、ここで主張され
ているのは、真面目でないものこそが永続的
な価値をもつ、という強固な民衆的信仰につ
いてである。【7】ブラジルにおいて、規則
と常識と事大主義によって支配された堅気な
真面目さ=堅苦しさ(ポルトガル語のser
ioに対応する一語を見つけることは難し 
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い)を代表するのは、政府機関、政党、学校
、裁判所といった公共的な組織から、【8】
会社、銀行、さらには教会や社交クラブとい
った組織にいたるあらゆる中産階級的な法人
組織であり、それらは一種の永続性のイデオ
ロギーを所有しているものの、現実には社会
のなかでつねに改変や整理の対象とされ、驚
くほど頻繁に現われては消えるという動きを
繰り返してきた。【9】役所や企業の標榜す
る永遠性へのオプセッションは、かなわぬ理
念にすぎないことを民衆はすでに悟ってしま
っている。これと対照的なのが、貧しく、地
味であっても決して廃れることも宗旨替えす
ることもなく、昔ながらの熱気とともに存続
してきたカーニヴァルの地域集団なのであ 
る。【0】永遠性のイデオロギーを戴くかに
みえる制度的な法人組織が、じつははかない
命しか持たず、逆説的にも、まったく自発的
に生まれ組織を欠いたカーニヴァル集団と祝
祭の方が、結局は日々生きる民衆の永続性へ
の希求をまっすぐに受けとめることができる
…。このパラドックスのなかの真実に目覚め
ることによって、ブラジルには、真面目でな
いもの、中産階級に属さないものはすべて生
き残る、という強固な信仰が生まれることに
なったのである。