長文集  7月1週  母が四年生だったころ  si-07-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/06/09 09:37:54
【1】「あら、なつかしい。」
 母が声をあげました。おばあちゃんの家を
改築することになっ て、荷物の整理に行っ
たときのことです。母の手には、手紙の束が
握られていました。色とりどりの便箋や封筒
、かわいらしいメモ帳の切れ端などがたくさ
ん出てきました。
【2】「昔は、携帯やメールなんかなかった
でしょう。だから、こんなふうに手紙を交換
していたのよ。」
と母が言います。するとおばあちゃんが笑い
ながら、
「毎日学校で会う友だちともやり取りしてい
て、よくそんなに書くことがあるものだと思
ったわ。」
と言いました。
 【3】母は少し恥ずかしそうでしたが、私
は見せてもらうことにしました。手紙のほと
んどは、今でも家族ぐるみでつきあいのある
母の同級生からのものです。特におもしろか
ったのは、四年生のときにダジャレに夢中に
なっていたころの手紙です。
【4】「大沢先生のおおさわぎ」「そんなシ
ャレやめなシャレ」「体育行く?」
などと書いてあり、大沢先生らしい太った男
の人のイラストがありました。さらに、
「真衣子、まーいい子。」
と母の名前を使ったダジャレもありました。
 【5】そのほかに、秘密の手紙もありまし
た。封筒の表書きに「真衣子へ。だれにも見
せないでね」とあったので、私は少しどきっ
としました。封筒の中には、色あせた水色の
びんせんが入ってい て、小さな字でぎっし
りと文が書いてありました。
 【6】私はそれを読みたかったけれど、母
はこれはだめ、とさっとかくしてしまいまし
た。私はきっと好きな子の話が書いてあるの
だな、と思いました。私だってもう四年生だ
からわかるのになあ。
 【7】おばあちゃんは、箱のほこりを払い
ながら、∵
「ママはね、小学生のころは、とてもおとな
しかったのよ。授業参観に行ってもほとんど
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発言しないような子でね。」
と驚くようなことを言いました。今の母から
は全く想像できませ ん。
【8】「ねえねえ、いつから今みたいにうる
さくなったの?」
と聞くと
「あなたが生まれてからかしらねえ。」
と、おばあちゃんが答えました。私は、人間
って変わるものだなと心の中で思いました。
母は知らぬ顔で、昔の本を束ねています。
 【9】私は、もし子どものころの母と今、
同じクラスだったら、私たち、仲良くなるか
なあと考えました。なんとなく、好みも似て
いそうだし、話も合いそうだなと思います。
私は楽しくなってき て、
「おはよう、真衣子。」
と聞こえないようにつぶやいてみました。【
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(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 
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