長文集  7月1週  経験と知識  yabi-07-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/06/10 13:16:15
 【1】「案ずるより産むがやすし」という
言葉がある。あれこれ考えているよりも、ま
ずやってみようということだ。行動によって
新たに切り開かれていくものも多い。やって
みないことには何も始まらないというのは確
かに真理である。【2】「めくら蛇におじ 
ず」ということわざもある。蛇という知識が
ないために、怖がらずに歩いていく。その結
果、結局蛇は行動の妨げにならなかったとい
うことである。
 【3】このように考えると、知識は経験の
障害になると言える。むしろ、知識がない方
が話は進みやすい。明治維新を担ったのは、
地方の下級武士の若者たちだった。中央の権
力の伝統という知識から自由であったために
、大胆に日本の未来図を描けたのだ。【4】
知識が乏しかったことが日本の未来を切り開
いたのだと言ってもいい。
 しかし、その明治維新を発展させたのは、
欧米に視察に行った若者たちの新しい知識で
もあった。知識のなさは、混迷する事態を打
ち破るエネルギーではあったが、新しい見取
り図を作るには、そのための知識が必要だっ
た。【5】そう考えると、知識にもまた重要
な役割があることがわかる。
 だから、問題は、経験か知識かということ
ではない。経験も、知識も、物事を実現する
ためのひとつの方法である。【6】目的に到
達するための手段として経験と知識があるの
だとしたら、大事なことはその手段ではなく
目的の方である。「案ずるより産むがやす 
し」ということわざで問われているのは、ど
う産むかということではなく、何を産むかと
いうことなのである。


 【7】鬼退治に行った桃太郎に従ったのは
、犬と猿と雉(きじ)だった。それぞれが象
徴しているものは、犬は忠節、猿は知恵、雉
(きじ)は勇気だという説がある。だが、肝
心なのは従者ではなく桃太郎自身である。【
8】その桃太郎が象徴しているものこそ、鬼
退治という行動の目的である。確かに、目的
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だけでは物事は成就しない。それなりの手段
や方法が必要である。しかし、目的が明確で
ありさえすれば、それに応じた手段は必ず現
れるのである。
 【9】これを自分たちの人生に当てはめて
みると次のようなことが言える。何かを勉強
する場合、大事なのは、どういう勉強をする
かという方法に対する知識である。そして、
実際に勉強をするという行動である。どちら
も同じように大切だ。【0】しかし、もっと
大切なのは何のために勉強するのかという目
的だ。その目的をまず確かなものにすること
が最初にすべきことなのである。

(言葉の森長文作成委員会 Σ)