1.【1】「あら、なつかしい。」
2. 母が声をあげました。おばあちゃんの家を
改築することになって、荷物の整理に行ったときのことです。母の手には、手紙の
束が
握られていました。色とりどりの
便箋や
封筒、かわいらしいメモ帳の
切れ端などがたくさん出てきました。
3.【2】「昔は、
携帯やメールなんかなかったでしょう。だから、こんなふうに手紙を
交換していたのよ。」
4.と母が言います。するとおばあちゃんが
笑いながら、
5.「毎日学校で会う友だちともやり取りしていて、よくそんなに書くことがあるものだと思ったわ。」
6.と言いました。
7. 【3】母は少し
恥ずかしそうでしたが、
私は見せてもらうことにしました。手紙のほとんどは、今でも家族ぐるみでつきあいのある母の同級生からのものです。
特におもしろかったのは、四年生のときにダジャレに
夢中になっていたころの手紙です。
8.【4】「
大沢先生のおおさわぎ」「そんなシャレやめなシャレ」「体育行く?」
9.などと書いてあり、
大沢先生らしい太った男の人のイラストがありました。さらに、
10.「
真衣子、まーいい子。」
11.と母の名前を使ったダジャレもありました。
12. 【5】そのほかに、
秘密の手紙もありました。
封筒の表書きに「
真衣子へ。だれにも見せないでね」とあったので、
私は少しどきっとしました。
封筒の中には、色あせた水色のびんせんが入っていて、小さな字でぎっしりと文が書いてありました。
13. 【6】
私はそれを読みたかったけれど、母はこれはだめ、とさっとかくしてしまいました。
私はきっと
好きな子の話が書いてあるのだな、と思いました。
私だってもう四年生だからわかるのになあ。
14. 【7】おばあちゃんは、箱のほこりを
払いながら、∵
15.「ママはね、小学生のころは、とてもおとなしかったのよ。
授業参観に行ってもほとんど発言しないような子でね。」
16.と
驚くようなことを言いました。今の母からは全く
想像できません。
17.【8】「ねえねえ、いつから今みたいにうるさくなったの?」
18.と聞くと
19.「あなたが生まれてからかしらねえ。」
20.と、おばあちゃんが答えました。
私は、人間って
変わるものだなと心の中で思いました。母は知らぬ顔で、昔の本を
束ねています。
21. 【9】
私は、もし子どものころの母と今、同じクラスだったら、
私たち、
仲良くなるかなあと考えました。なんとなく、
好みも
似ていそうだし、話も合いそうだなと思います。
私は楽しくなってきて、
22.「おはよう、
真衣子。」
23.と聞こえないようにつぶやいてみました。【0】
24.(言葉の森
長文作成委員会 φ)