長文集  8月1週  いただきますの前に  si-08-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/06/09 09:38:52
【1】「あつっ。」
 ぼくは、思わず指を引っ込めました。しか
し、後ろを向いている母には気付かれません
でした。今夜は、ぼくの大好物の鳥の唐揚(
からあ)げです。あつあつの鳥が並ぶお皿か
ら食欲をそそる香りが漂ってきます。
 【2】ぼくは、思わず手を伸ばしてしまっ
たのですが、揚げたてだったせいで、人差し
指にやけどをしてしまいました。ぼくは何食
わぬ顔で、そっと洗面所へ行き、指を流水で
冷やしました。母は何も知らずに、揚げ物を
続けています。
 【3】その唐揚(からあ)げは、ぼくが下
味をつけるのを手伝ったのです。ショウガや
ニンニクをすりおろしたり、酒やしょうゆを
入れたり、片栗粉をまぶしてなじませたりす
るのがぼくの仕事でした。だから、どんな味
に仕上がったか確かめたかったのです。
 【4】ぼくは、指が冷たくなるまで冷やす
と、再びキッチンに向かいました。さっきの
唐揚(からあ)げは食べごろに冷めているは
ずです。のれんをあげて、テーブルに目をや
ると、
「あ、あれ? ないっ。」
 唐揚(からあ)げのお皿はなくなっていま
した。
【5】「鳥を取り上げないでえ。」
とぼくは、言いそうになりましたが、がまん
して、冷静にまわりを見渡しました。なんと
、お皿は母の横のレンジ台に移動していまし
た。ぼくは、まだ食べていないのにと心の中
で叫びました。
 【6】母はニヤッとして、菜ばしではさん
だ鳥を振って油を切りながら、
「残念でした。」
と言いました。さらに、
「水ぶくれにならなかった?」
と聞きました。ぼくは、さっきのつまみぐい
未遂を母は知っていたのだなあとあせりまし
た。∵
 【7】父もつまみぐいの常習犯です。会社
から帰って、まずキッチンに直行し、テーブ
ルの上をチェックします。そして、置いてあ
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るものをひょいと口に入れてしまいます。す
ると、母が必ず、
「きちんと手を洗ってから! うがいもして
から!」
と言うのです。
 【8】父は、はいはいと言いながら洗面所
に消えます。そんなときの父は、まるで叱ら
れた子供のようです。父は何度も注意されて
いるのに、堂々とつまみぐいをするところが
ぼくと違います。
 【9】ぼくは、昨日うまい言い訳を考え付
きました。つまみぐいを叱られたら、ママの
料理があんまりおいしそうだからだよ、と言
うのです。これなら見つかっても叱られませ
ん。しかし、「そんな言い訳していいわけ」
と言われるかな。【0】

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 
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