完ぺき主義 【1】君たちは今、のびるさかりだ。 おとながそばでみていると、その成長が目 にみえるので、うれしさのあまり、つい注文 をつけたくなる。 あっちをのばせ、こっちをもうすこしひろ げろ、などという。 【2】それが、どこそこが足りないという ふうに表現される。 数学は七〇点だ、もうすこしがんばれ。 おとなが、そういいたくなるのは、君たち がのびる力をもっていて、のばさないでいる ようにみえるのが、はがゆいからだ。 【3】のびる力があるのに、のばさないの では損だ。 だが、損得をはなれて、おりちゃっている ものもいる。 そういう、おりちゃった人にちょっといい たい。 いまはおりてるけれど、はじめはやる気が あったと思う。【4】ところが、いざ、やっ てみると、完ぺきにはほど遠い。 そこへもってきて、あれも足りないじゃな いか、これも足りないじゃないかといわれる と、どうしていいかわからなくなっちゃう。 それで、勝手にしろということになったのじ ゃないかな。 【5】私は完ぺき主義というのはきらいだ 。 経験からそうなったのだ。高校のとき、ド イツ語のポケット字引きを一冊まるまるおぼ えてやろうと思って、半分ぐらいまでカード にしたことがある。とてもつらかった。 【6】だけど、そんなことをしていたら、 一日が三十時間あっても足りないことがわか った。 人間は完ぺきでなくたって生きていけるん だということが、おとなになってから、やっ とわかった。 【7】年をとった今は、完ぺきではないほ うがいいんだ、と思うようになった。 完ぺき主義がこまるのは、水泳のまえに、 |
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準備体操ばかりやっていて、つかれて泳げな くなってしまうようなことがあるからだ。 【8】だから、完ぺきにできないからだめ だ、と思うのはまちがっている。 完ぺき主義なんてものは、もともと実行で きないか、実行したら役にたたないものなん だ。 【9】結果がどうあろうと、やってみるこ とだ。 君らしくやれば、それでいいんだ。【0】 『人生ってなんだろ』(松田道雄)より |