1最近、と言っても大分前からのことだが、ラジオの音楽番組の解説者が、金曜の夜などに番組が終わるとき「では皆さん、よい週末をお過ごしください」といったあいさつをするようになった。2このような、一昔前だったらだれも言わなかったあいさつを日本人がするようになったのは、海外との接触が飛躍的に増えた結果、Have a nice weekend(holiday)! のような、休みを前にしてのあちらの人々のあいさつの習慣を、日本人が進んで取り入れた結果、起こった言語表現上の変化なのである。3一般的に言ってある言語がそれまで接触のなかった別の言語と接触するようになると、そこに相互の交流が生じ、双方の言語の中に相手の言語によるいろいろな変化の起こることが知られている。このような言語変化を、言語学では言語干渉と呼んでいる。
4多くの日本人にとって、欧米の文化や風俗習慣は、依然として自分たちの生き方の目標や憧れの対象であるようだ。その結果、いま日本語は、日本の国際化という大変動の中で、外国語、特に英語という強大な言語からの広汎で、しかもほとんど一方的な干渉にさらされている。5さきに述べた新しい週末のあいさつの誕生は、表現形式の領域に起こった比較的新しい言語干渉の一例であるが、他のいろいろな分野でも干渉はすでに数多く起こっている。
6しかしそれが最も目立つ形で、しかも一番広範囲で起こっているのは語彙の分野である。普通には外来語と呼ばれて、何かと論議の対象になるタイプのことばは、実は英語を旗頭とするヨーロッパ諸言語に日本語が干渉されて起こった言語変化にほかならない。7たとえば食堂などで給仕が「水」と言えばよいのに「ウォーター」を使い、「いちご」という美しい日本語があるのに、わざわざ「ストロベリー」と呼んだりすることが、その一例である。
8このような外来語の問題は言語の問題であると同時に、それはまた文化文明の問題でもある。9人々は単に自分たちの言語に不足する語彙を補うために外国のことばを求めるだけでなく、そこには異文化に対する憧れや自己顕示欲、そしてその文化や言語への接近
|