長文 9.2週
1. 【1】このくり返しの放映ほうえいによる暗示あんじの力はたいへん大きいものです。それは、いきなり心の深い部分に侵入しんにゅうし、そこに直接ちょくせつ働きかけてきます。平たくいえば、暗示あんじ効果こうかをくり返しつづけることによって、その製品せいひんのイメージをわたしたちに信じこませてしまいます。【2】そして、知らず知らずのうちに、買いたい気持ちをいだかせてしまうのです。この映像えいぞう影響えいきょう力からのがれることはなかなかできません。
2. このからくりは、テレビのコマーシャルばかりでなく、あらゆるものにあてはまります。【3】わたしたちの持っている習慣しゅうかんやくせというものは、すべてそうです。たとえばわたしたちは、朝起きて顔を洗いあら 、歯をみがくという習慣しゅうかんを持っていますが、これは言葉によっていいつけられ、それを反復はんぷく練習するという動作によって、わたしたちの心の底に一つの形が焼きついてしまっているからです。【4】テレビの場合も同様で、われわれがテレビを見る習慣しゅうかんを身につけてしまったことが、反対にコマーシャルに利用されているわけです。このようにわたしたちは、精神せいしん的にも肉体的にも、ある事がらをくり返しおこなうと、それが習慣しゅうかん化されるようにしくまれているのです。【5】そして、いったん身についた習慣しゅうかんは「第二の天性てんせい」というように、持って生まれた性格せいかくのようになってしまいます。
3. したがってわたしたちは、どんな習慣しゅうかんを身につけているかによって、その生涯しょうがいを大きく左右されていきます。【6】特にテレビのように影響えいきょう力の大きい場合は、どんな見方をしているかが大きな意味を持ってくることになります。【7】もとよりテレビはわたしたちの生活を豊かゆた にするための文明の利器として人間が作りだしたものですから、その効果こうか有効ゆうこうに生かせば、わたしたちの実生活にもおおいに役立つ点があるはずです。【8】見る人が自覚を持って自分の人生に役立てるように、必要なものだけを選んで見るような習慣しゅうかんづくりをすれば、テレビはわたしたちに大きなめぐみを与えあた てくれます。【9】ところが、テレビ番組をつくる側がいいかげんにつくった∵り、見る人が自覚を欠いたりしていると、大きな損失そんしつ招くまね ことになります。ひいては、人間のつくりだしたものを自分たちで支配しはいすることができず、つくりだした物によってぎゃく支配しはいされるというはめにおちいることになるのです。
4. 【0】幼少ようしょう年期の人たちは、放っておくと、内容ないようのよしあしも、興味きょうみ本位の番組を選んで見ますから、無意識むいしきのうちに本能ほんのうをくすぐるような番組にかたより、おもしろいからついつづけて見るということになるでしょう。その結果、テレビの前にくぎづけにされて、映像えいぞうを一方的に押しつけお   られる状態じょうたいがつづき、心の底に送りこまれることが気づかないうちにおこってしまうのです。こういう状態じょうたいを毎日くり返していると外から押しつけお   られることになれてしまって、自分から考えるということが、だんだんできなくなります。考えることができなくなった人間は、歌を忘れわす たカナリヤのように、もはやたましいを失った人間といえるでしょう。教育専門せんもん家の報告ほうこくでは、幼児ようじ期によくテレビを見せられた子供こどもは、友だちと遊べなくなったり気持ちが不安定になったりする場合があるそうです。
5. 今まで述べの てきたように、テレビをあつかうべき人間がその見方を誤っあやま て悪い習慣しゅうかんを身につけてしまうと、大事な人生をだいなしにしてしまいます。情報じょうほう化社会の洪水こうずいの中を、うまく泳いでいくためには、まずわたしたち自身が情報じょうほう化社会の住人であることをしっかり意識いしきすることが大切なのです。