1. 【1】そこでエジソンは、とうとうかるい
蓄電池の
研究にとりかかることになりました。
2. さて、
研究に手をつけてみると、いままでだれも手をださなかったわけです。それは、おそろしくむずかしいしごとでした。【2】なまりいがいのあらゆる
金属をつかい、あらゆる
薬品をつかって、
実験をこころみてみましたが、どうしてもうまくいかないのです。
3. ある日、友人のビーチという人がやってきました。【3】この人はのちに、ゼネラル電気会社の電気
鉄道課のしごとをした人ですが、エジソンの
蓄電池の
研究のことをたずねて、
4.「おもいのほかむずかしい
問題らしいね。さすがのきみも、よわったろう。」
5.といいました。【4】すると、エジソンがこたえました。
6.「ビーチくん、わたしは、よい
蓄電池のひみつをあかしてくれないほど、
神さまはふしんせつじゃないとおもうね。」
7.「じゃあ、このひみつのかぎは、どうしたら見つかるというんだね。」
8.【5】「もうれつにかんがえたうえで、もうれつに
実験をやってみることさ。」
9. だが、エジソンの
研究も、しっぱいのれんぞくでした。月日はどんどんと、たっていきます。それでもエジソンは、気をおとしません。
10.【6】「きょうのしっぱいは、あすはとりかえせる。あすだめならあさってとりかえす……。」
11. いつも
希望をすてません。朝から
晩まで、
硫酸・
硝酸・
化成ソーダなどのつよい
薬品をいじるエジソンの手は、すっかりあれてしまいました。
12. 【7】
世界一の天才
発明家が、かんがえにかんがえぬき、たいへんな
熱心さで、しかも、だれもまねのできないほどのしんぼうづよさで
研究をつづけ、それで一年たっても二年たっても
発明できない、かるい
蓄電池。【8】そんな
研究は、はたの人々の目には、まったく
不可能なことととりくんでいるとしか見えなかったのもむりはあり∵ません。
13. エジソンといつもいっしょに
研究をつづけていた一人の
所員などは、
14.「この
研究は、エジソンがいままでやりとげたぜんぶの
研究をいっしょにしたのより、もっとたいへんだ。【9】しかもエジソンは、一つの
実験にしっぱいすると、『これで
成功に一歩ちかづいた。』というのだ。これほどの
努力には、いかなる
自然も、
根まけせずにはいられまい。
15. 【0】わたしは、エジソン
蓄電池がうまくいくかどうか知らないが、いずれにしても、もうエジソンは、
世界的発明家などというよりも、
世界の
偉人だという気がしてきた。」
16.と、しみじみいったものです。
17.(「エジソン」
崎川範行著 講談社 火の鳥
伝記文庫より)