長文集  7月3週  ★父が母国をはなれたあと(感)  si-07-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】父が母国をはなれたあと、母は三人
の育ちざかりのむすこをかかえ、けんめいに
生きてきました。「牛乳とやさいをうる店が
ちかくにないから、あなたがやってみては。
お金は用だてます。」と、しんせつな友人が
すすめてくれ、家のすぐそばに小さな店をひ
らきました。【2】もうけはみじめなほどす
くないのですが、ともかく毎日いくらかでも
お金がはいってくるのは助かります。
 それでもときには、あすのお金にもこまる
ことがありました。そこでロベルトとリュド
ビグの兄弟は、アンデルセンの童話そっくり
のアルバイトをしました。【3】町かどに立
って、通行人にマッチのわけうりをし、銅貨
をいくまいか、かせいだのです。
 ロベルトとリュドビグが、ほこらしげにそ
の日のうりあげを母にわたすのをみたとき、
アルフレッドは、どれほどじぶんをなさけな
くおもったかしれません。【4】からださえ
じょうぶなら、兄たちにけっしてまけてはい
ませんのに……。
 アルフレッドが気をうしなってたおれた数
日後の雪の日には、こんなことがありました

 【5】店から昼食のしたくにかえった母が
、ロベルトに一まいの硬貨をわたし、「パン
とすづけにしんをかってきてちょうだい。そ
れでおひるをすませましょう。」とたのみま
した。
 【6】ロベルトは二つへんじででかけてい
ったのですが、いつまでももどってきません

「どこまでいったのかしら……。」
 しびれをきらした母が、ドアをあけると、
そこにロベルトが立っていました。そまつな
がいとうを雪でぐっしょりぬらし、青ざめて
ふるえながら。
【7】「ぼく、お金を雪のなかにおっことし
たんだ。いくらさがしてもみつからなくて…
…。」
 十二さいの、父ににてがっしりしたからだ
のロベルトがなきじゃくりました。硬貨をし
まったポケットにあながあいていたのです。
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【8】母の、なかみのとぼしいさいふのこと
をおもって、ロベルトは、きっと、とほうに
くれてしまったのでしょう。
(かわいそうに、ロベルト兄さん……。)
ベッドのなかのアルフレッドは、心でよびか
けました。
【9】(ひるごはんくらい、たべなくてもへ
いきなのに……。)
「おばかさんねえ……。」
 ロベルトをだきしめて、母がわらいました
。∵
「雪のなかに貯金したとおもえばいいじゃな
い。」
「そうさ。」
と、リュドビグ。
【0】「でも、雪がとけたとき、フレイのや
つがさきに貯金をみつけなきゃいいけどなあ
。」
 フレイというのは、リュドビグのけんかな
かまなのです。
 みんな、おもわずふきだしました。
 それから母と子の四人家族は、ひとさらず
つのスープを、フーフーふきながらのみ、ほ
かになんにもたべなくても、心はみちたりて
いました。たがいのあたたかい理解と愛情と
ユーモアでむすばれていましたから。
 
(「ノーベル」大野進著より)