長文集  8月3週  ★書物はいつの世にも(感)  ni2-08-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】書物はいつの世にもゆっくりと読む
べきものだと私は思 う。こんなにも本がた
くさん出ているのに、と言うかもしれない。
しかし、同じようにレコードだってたくさん
出ている。【2】展覧会もいたる所で開かれ
ている。だからといって、音楽を能率的に聴
き、絵画を急いで見る人はいまい。それなの
に、こと本に関する限り速読を目指すのはど
ういうわけなのだろう。【3】おそらく、書
物というものが鑑賞するというより知識の伝
達の媒体と思われているせいであろう。確か
に本とレコードでは違う。本の方がはるかに
多目的である。【4】鑑賞するというよりは
、情報を得たいために読まれる本の方がずっ
と多いだろう。そんなことは十分承知の上 
で、なおかつ、私は遅読(ちどく)を勧める

 【5】速く読むということは一見能率的の
ように思えるが、結局は損をすることになる
。私も必要に迫られて急いで読まざるを得な
いことがある。ところが、急いで読んだ本に
限って、あとに何も残っていない。【6】そ
こで、もう一度読み直さなければならないこ
とになる。そして、改めてゆっくり読み直し
てみると、最初に読み飛ばしたそんな読書が
何の意味も持っていないどころか、まったく
読み違えていたことに驚くのである。【7】
こうなると、速読するよりは読まない方がま
しである。なぜなら、誤解は無知よりも有害
だからである。
 そんなことを言っても、必要に迫られて読
まなければならない場合が多いではないか、
と言うかもしれない。【8】しかし、必要に
迫られたらなおのことゆっくり読むべきであ
る。必要に迫られる以上あくまで誤解は許さ
れないからだ。【9】たとえ明日までにどう
してもこの一冊を読み上げねばならないとい
う必要に迫られた場合でも、ゆっくりと読み
、読めるところまで読んで本を閉じたらい 
い。その方が、いい加減に斜め読みをするよ
りは、はるかに得るところが大きい。
 【0】遅読(ちどく)を勧めるもう一つの
理由は、いくら速く読んでみたところ∵でた
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かが知れているということである。どんなに
速読の技術を身につけたところで、二倍のス
ピードで読めるものではない。仮に二倍の速
度で読めたとしても、そうした速読から読み
取ることができるのは、ゆっくり読んだ時の
二分の一にすぎない。つまり、半分しか読み
取らないのだから二倍の速さで読めるわけ 
だ。しかも、その半分が前に述べたように誤
読に陥りやすいとすれば、速読というものが
いかに無意味であるかに気づくであろう。実
際、本というものはそんなにたくさん読める
ものではない。わずかな本しか読めないから
こそ、何を読むかその選択が大切になる。つ
まり、ゆっくり読むことは、それだけ良書を
選ばせる効果を持つのである。
 わずかな本しか読めなかったなら、それだ
け視野はせまくなり、とても現代に追いつい
て行けないと言うかもしれない。確かにそう
いった不安が現代人を速読へと駆り立ててい
る。だが、そんなことは決してない。十冊読
む人よりも五冊読む人の方が視野が広く、立
派な見識を身につけているというようなこと
はざらにあるのだ。読書の価値は何冊読んだ
かで決まるのではなく、どんな本をどのよう
に読んだかで決まるのである。