チカラシバ3 の山 8 月 3 週
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○自由な題名
○小さいころから大切にしているもの
○おかしかったこと
○一九七七年。
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一九七七年。初めてケニアのマサイ・マラ動物保護区をおとずれたとき、とてもふしぎに思う光景にぶつかった。
車を走らせていると、シマウマとトピがいっしょになって草を食べているかと思うと、シマウマとトムソンガゼルがいっしょになっているときもある。
わたしは、「せまい草原ならいざしらず、ここはかぎりなく広がる草原である。なにも同じ場所でいっしょになることもあるまい。べつべつにわかれて、のんびり食べればいいのに」
と、思った。いっしょにいれば、同じ草をめぐって、うばいあいが起こるのではないかと考えたからだ。
ところが、草食の哺乳類たちは草をめぐってのあらそいを起こしていない。同じ場所で、それぞれの種(しゅ)がゆうゆうと草を食べていた。
それ以来、それぞれの種(しゅ)が草をどのように食べているのか、注意深く観察をするようになった。草の食べ方が、それぞれの種(しゅ)によってちがっていると思ったからだ。
同じく、マサイ・マラ動物保護区のサバンナを車で走っていると、三〇頭ほどのヌーと、二〇頭ほどのシマウマがまじりあうようにして草を食べていた。車を止め、わたしは両者の食べ方をくらべてみた。
シマウマのほうは、まだ穂のついている草むらの中にはいりこんで食べているのに対し、ヌーのほうは、草や茎がすでに半分以上も食いつくされたところにたって、シマウマの食い残しの部分をしきりに食べているのだ。すぐかたわらに、まだぜんぜん食べていない草があるというのに、どのヌーも、それには口をつけようともしない。背たけがみじかくなった草ばかりをしつこく食べつづけていた。
わたしは、ヌーの口のかたちに注意をした。横に広がり、いかにも、みじかい草を食べるのに適している。
そのうえ、ヌーの門歯は上あごにはなく、下あごだけにはえている。この門歯のつくりも、みじかい草を刈りとるのに適している。事実、ヌーはみじかい草をじつにたくみに刈りとって食べているのだ。∵
シマウマのほうは、穂のついた草も刈りとって食べている。シマウマのこの門歯は、ヌーとちがって、上あごにも下あごにもはえている。背たけの高い草も、シマウマには食べやすくなっているのだ。
シマウマとヌーは、同じ場所にいっしょにいても草をめぐってあらそいを起こすどころか、草をじょうずに食いわけていたのだ。自然は、いろいろな動物が、同じ場所で食べてくらしていけるようにつくりだしているのだ。
(黒田弘行「サバンナをつくる生きものたち」)