1. 【1】その日も、
実験につかれて頭をかかえこんでいましたが、ふと、ゆかの上を見たエジソンは、おもわず、あっと声をあげました。
2.「そうか、そうか……どうして、こんなことに気がつかなかったのだろう!」
3. それは、もめんの糸くずでした。
4. 【2】エジソンは、もめんのぬい糸を手ごろのながさにきり、タールとすすをまぶしてニッケルにのせ、そうっと
炉にいれてやきました。
5. むねをおどらせながら、とりだしてみると、ああ、なんというよろこび! 【3】おもったようにほそい
炭素線が、みごとにできていたのです。
6. エジソンは、もうむちゅうでした。それから二日がかりで、この
炭素線を、
輪にしたり、ばてい形にしたりして、ガラス
球の中にふうじこみました。【4】そして、ゆっくりゆっくり空気をぬき、百万分の一
気圧の
真空にしました。
7.「できたぞ! できたぞ!」
8. おもわずさけぶエジソンを、
所員たちがとりかこみました。【5】みんなが、じっといきをつめて見つめる中で、エジソンはその
電球を
注意ぶかく電線につなぎ、ふるえる手でスイッチをいれました。
9.「わあっ!」
10. それは、文明のあけぼのをつげる
歓声でした。
11.【6】「おめでとう!」
12.「おめでとう!」
13. みんなは、かわるがわるエジソンの手をにぎりしめました。エジソンは、ひとことも声がだせず、ただじっと、
世界さいしょの
電灯を見つめていました。
14. 【7】一八七九年の十月二十一日のことでした。十月二十一日――それはいまでも、「エジソン
記念日」とされています。
15. この
電灯は、四十五時間かがやきつづけてきえました。そのあいだ、だれもが、まる二日間、ねようともしなかったのです。【8】エジソンは、くずれるようにたおれ、そのまま二十四時間ねむりつづけました。∵
16.「メンロパークの
魔術師が、とうとう
電灯を
発明したそうだよ。」
17.
世間は、もう大さわぎです。新聞は、毎日のように大きくかきたてました。
18. 【9】そして、この年の大みそか。
研究所の
庭の木という木には、何百こという
電球がつけられました。
所員が
総がかりでととのえた
展覧会です。
19. ニューヨークからは、
臨時特別列車が人々をはこびました。【0】そうしてあつまった何千という人たちの頭の上で、
世紀の光が、まばゆいばかりにかがやいたのです。
20. やがて、新年をつげる教会のかねがなりはじめました。そのときだれからともなく、
21.「エジソン、ばんざい!」
22.という声があがりました。
観衆のどよめきは、いつまでもいつまでも、こだましました。
23.(「エジソン」
崎川範行著 講談社 火の鳥
伝記文庫より)