1私が作曲家として携わっているのは西洋音楽です。いわゆるクラシック音楽と呼ばれ、皆さんもご存知であろうバッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマン、ショパン、ブラームス、ワーグナー、ドビュッシー、と続いてきた伝統があります。2私はその線上に乗って、現代において作曲をしているわけです。クラシック音楽というと今や音楽の一ジャンルになっていますが、そもそもはヨーロッパにおいて、特に教会を中心として発達してきた、ある意味では非常にローカルな音楽なのです。3西洋という一地域における民族音楽とも言えます。
とはいえ現在、西洋音楽はグローバルなものとして広まっています。なぜここまで世界的な音楽として成功したかというと、要因の一つには、五線紙というものに機能的に記録する形式を獲得したことが大きく働いています。4「楽譜を書く」という大原則が根本にあったために、数百年前の作品も残っているのです。これを楽譜中心主義と言います。
たとえばこんな話があります。日本では音楽そのものを「ミュージック」と訳していますが、西洋においてミュージックと言うと、まず頭の中にイメージするのは楽譜なのです。5辞書を引いてみるとわかると思います。欧米に行って、オーケストラや室内楽といった創作する現場へ行くと、
「俺のミュージック、どこかへいってしまったぞ。お前、今日ミュージック貸してよ」
といったふうに、日常の会話の中では「楽譜」という意味でミュージックという言葉が使われています。
6つまり、西洋音楽の存在を裏づけるもっとも重要な要素として、まず楽譜(ミュージック)があるということです。
西洋音楽を楽譜中心主義という大原則のもとに、いくつかの要素に分けて分析してみましょう。7まず楽譜が中心にあって、それを音(サウンド)に変換する人がいる。演奏(パフォーマンス)する、演奏家です。さらにその演奏を聴取(リスニング)する人、
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