1サルは集団で暮らしている。ストレスが溜まる。そこで彼らが編み出した方法というのが、グルーミングというものだ。お互いの毛づくろいをする。
2衛生的な目的であれば、グルーミングしている時間と身体の大きさが正比例するはずなのだが、そうではなく、社会的なグループの大きさと時間とが比例するという。つまり、複雑で大きな集団になればなるほど、グルーミングの時間が増える。
3しかもグルーミングの相手は無差別ではない。特定の相手とのみ、おこなわれる。グルーミングは社会的に仲良くなろうとする行為であるのだ。親子同士はもちろんだが、仲間内の、特定の相手が選ばれて、グルーミングをする。4いわば親しい友人である。そして近くにこの友人がいるときほど、特に仲間のために警戒音を発したり、餌を見つけたよという合図をおこなうことが多いという。つまり、利他的な行為は、ふだんのグルーミングによる付き合いの結果なのだ。
5グルーミングによって親しい友人が増やせるし、生きていくのも簡単になるのなら、なるべく多くのグルーミング相手がいたほうがいい。しかし、このグルーミングの相手になる数は限られている。グルーミングは一対一でしかおこなわれない。6しかも一日のうち、四十パーセントの時間をグルーミングに費やすということも観察されている。小さな集団であれば、それで充分なのだが、より強大になろうとし、より大きな集団を作ろうとしたとき、グルーミングでは間に合わなくなってくる。7そこで、音声による友人作り、つまり言語が始まったのだ、というのがダンバーの説である。言語によって、グルーミングと同じように、友だちを増やしている。8つまり、ことばが、情報のやり取りではなく、仲良くなるという目的で使われている。
小田は、コンタクト・コールという特定の相手との音声の呼び交わしが、かなり原始的なサルにも見られると報告している。9コンタクト・コールは、移動中などにお互いの位置を教えあうためにおこなわれると考えられているものだが、特定の相手と頻繁におこなわれることから、やはり、集団を維持するためにおこなわれると考えられる。0グルーミングの補助的役割を果たしていると考えられ、これが私たちの日常会話の原型なのではないかという。
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