1『学校の怪談』という本がかくれたベストセラーと言っていいほど、よく売れているそうである。どこかの教室に幽霊が居た、というようなよくある話が書かれているようだが、これが意外と子どもたちに人気があり、おどろくほどの売れゆきを示していると言う。
2ある幼稚園の先生に次のような相談をされたことがある。子どもたちが話をしてくれ、とよくせがむので、むかし話など自分が覚えている話をしてやると、子どもたちは非常に喜ぶ。3テレビのアニメなどで、もっとおもしろい話を見ていると思うのだが、先生の話を予想外に喜んで聞く。そして、そのなかで魔女が出てきたりするところなど、こわいところがあると、「こわい」とさけんで耳を手でふさいだり、となりの子どもにしがみついたりしている。4これはよくなかったかな、と思っていると、子どもたちが、「先生、あのこわい話をして」とせがむのである。
先生が疑問に思われるのは、「どうして、子どもは『こわい、こわい』とさわぎながら、何度も聞きたがるのでしょう」ということである。5そして、そもそも子どもにそれほどこわい話をしていいものだろうか、ということである。子どもたちは何度も同じ話を聞いて、こわいところはもうすでに知っている。そして、それを心待ちしているようにさえ見えるが、そこに話がくると、「キャー」とさけんだりする。6何とも不思議な現象だ、と先生はいぶかしがられるのである。
人間にはいろいろな感情がある。喜怒哀楽などというが、それはもっとこまかく分けられる。7その感情を体験し、自分がそのような感情のなかにいるということを意識するのは、六歳くらいまでの子どもでも可能であり、それを体験することは子どもの情緒の発達にとって非常に大切なことである。
8ただ、悲しみや怒りなどの感情があまりに強いときは、子どもがそれにたえられず、情緒の発達というより、むしろ破壊的な結果になってしまう。9その上、親としては、子どもに悲しみや恐怖などはなるべく味わわせたくない気持ちがあるので、そのような体験をさせないようにする。しかし、このあたりが難しいところで、子どもが十分に育ってゆくためには、そのような否定的な感情を体験することも必要なのである。
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