1生物界の中でヒトという種を特徴づけてみると、優れた学習能力がほぼ一生にわたって維持される、ということが第一に挙げられるであろう。
2例えば、クジラやライオンのような大型哺乳類について言えば、クジラは水中生活に便利なように体型が変化しており、またライオンやトラは、筋肉が発達し、敏捷で、しかも鋭い牙や爪を備えている。したがって、ある環境条件下では餌を手に入れ、種族を維持していくことが容易である。3反面、これらの大型哺乳類は、限られた環境下においてのみ繁栄しうる。クジラはもはや陸上で生活することはできないし、ライオンやトラは比較的大きな草食獣が手に入らなくなったらおしまいである。
これに対して、サルの仲間は、そういった身体上の特徴を持っていない。4さらにまた、生まれつきの行動の仕組みが比較的少なく、加えて雑食性でもあるところから、様々な環境に適応しうる。いわば、他の大型哺乳類が特殊化するという方向で進化してきたのに対し、サルの仲間はむしろ、環境に対する柔軟性において進化してきた、ということができるであろう。
5したがって、サルの仲間では、経験に基づいて外界についての知識を身に付けることが、個体の生存にとっても、また種の維持にとってもそれだけ重要になってくる。つまり、サルはもともと学習する種である、と言い換えることができる。6外界についての知識を得ること――それによって、どこが安全か、どのようにしたら食物が手に入るか、などを的確に判断できることが生存のために不可欠なのである。
しかし、このような事情は、ヒトにおいてより一層顕著に認められる。7ヒトは他の類人猿と比べてさえ、生まれつきの行動の仕組みが少ない。このために、チンパンジーの子供とヒトの子供とを双生児のように育ててみると、初めの数か月間は、むしろヒトの子供の方が知的にも劣っているという印象を与えるほどなのである。
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