1昭和三〇年代半ばからのとどまることをしらない経済拡大による自然破壊のせいで、かなり怪しくなってきたとはいえ、日本は、本来、自然が豊か、すなわち生物多様性も高いのです。2この、急速に絶滅危惧種も多くなっている日本の自然を保全、ないしは回復するにはどうすればいいのでしょうか。身近な問題として考えてみましょう。
3そのためには、自然に手を加えず、放っておくのが上策という考え方もあります。これは、まったくのまちがいというわけではありませんが、いろいろ問題があります。
4一時期、森林で「木を伐る」ことが自然保護の目の敵にされたことがありました。七〇年代に入って環境が問題視されはじめた時代です。自然環境を守るためには、自然に手を加えてはならない、木を伐ること即、自然破壊という短絡的な理解です。5いまも都市生活者の間では、まだそうした考え方が色濃く残っています。
放っておけば、自然は守られ、生物多様性や生態系の健全性も保全されるのでしょうか。
6もちろん、自然や生態系にまったく圧力を加えず、そのままにできれば、自然保全としてそれに越したことはないかもしれません。7しかし、それは私たちの生存を否定することになります。人間が生活していくうえでは、居住や生産に利用するために森や湿地を壊したり、その生産物を生活資材に横取りしたりと、自然や生態系に圧力を加えることは避けられません。8この日本列島から人間が消えたほうが、ほかの生物たちにとってはうれしいかもしれませんが、私たちヒトも生物の一員として生きていかなければなりません。9私たちが日本列島で生きていく以上、自然や生態系に対しては、利用しながら保全していくというむずかしい対応が不可避なのです。
人間も生きていくうえで利用しなければならないという前提で、元来豊かだった日本の自然を守るポイントはどこにあるでしょうか。0先述のように、これまでの日本では都市生活者を中心に、自然や生態系の保護といえば「まったく手をつけることなく、放置すること」との認識が一般的でした。しかしそれは、次のような背景から、とりわけ日本の自然についてはあてはまらないようです。
その理由の一つは、日本の自然は、すでに人の手が入った自然が
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