「潔」と進がいった。「われのところに新しい本が東京から送って来たと違うか」
「ああ」ぼくはいった。「この間、小包で送って来たんや」
「貸してくれんか」と進はやさしくいった。
「いいよ」
とぼくはほとんどいそいそとしていった。進の意を迎えることのできる材料が意外にも身近にあったのがうれしかった。
「今日持って行こうか」
「おれがわれんちに行くわい」と進はいった。
その日進は約束した通りやって来た。ぼくはかれを自分の部屋に通して、伯母にたのんでそこに作ってもらってあったこたつに入るように勧めた。
進はぼくの見せた本のどれにもこれにも目をかがやかした。
「東京にはもっとあるんやろう」
「たのむから送ってもろうてくれんか」
「おれ今まで家の手伝いで読めんなんだろう、冬に入ってようやく読む時間ができたんや」
「四月に入れば、中学に入るための勉強せんならんから、読めんようになるしな」
と進は興奮したように次から次へとしゃべった。
東京に残っている本を小分けにして小包で送って欲しいとその日のうちに手紙でたのんでみると進に約束すると、進はようやく興奮を鎮め安心した風を見せた。
――その日進は高垣眸の「竜神丸」と南洋一郎の「吼える密林」とを借りて行った。
そして進との交友は再び復活し、冬休みの時と同じくらいの頻度でおたがいの家を往き来した。家での進は学校での進と別人の観があった。進が学校でも、家で会う時と同じように振る舞ってくれたら、ぼくは進を本当に親友と見なし大切に思ったに違いない。しかしぼくは家を出て家に帰るまでの進の専横な振る舞いを決して忘れるわけには行かなかった。進がそんなぼくの気持ちに感づいていたかどうかは分からなかった。しかしとにかくぼくたちは二人だけでいる限り、気が合い、話題も尽きなかった。話は戦争の見込みや、
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