1自然科学の中のどのような分野の研究にあっても、研究がその分野の進展に対する何らかの貢献となることを目指している以上、そこでは、科学者が行うことは、未知の土地に踏みこむ探検家のすることに似た点があると言えよう。2当面の研究テーマの中に新しい事実の発見をするとか、既知、あるいは、新発見の事実に対する新しい解釈や理論を構築するとかいったことが、進歩への寄与となるのであるから、研究の最前線に立っていれば、科学者個人は自分固有の研究プランや方法に従って研究を進めることになるのは当然であろう。3そのとき、自分のもつ研究に対する現状分析の結果や見通しが、大きな役割を果たす。これらを持ち合わせていなかったら、進歩への寄与となるような研究成果があげられることなど、ほとんど期待しえないからである。
4このような分析や見通しが立てられるためには、何が自分にとって疑問なのか、それをどのように解き明かしていったら研究成果につながるのかといった、いわば現実的なテーマヘの迫り方が重要となる。5したがって、この作業はきわめて個人的なものであって、客観的に誰にでも当てはめられるというものではない、ということになる。
6科学の研究というと、私たちがしばしば聞かされるのは、大方に受け入れられるような一般的な方法があるというもので、その典型的なものとして、帰納と演繹との二つの方法があげられる。7だが、これらの方法が適用される以前になされるべきことのあることが、忘れられてはならないと私は考える。それは、これらの方法を研究に用いることができるためには、科学者の心中に、研究の出発点を決めるある種の仮説とかアイデアがなければならないからである。8もしなかったとしたら、どのように研究を進めればよいのかとか、どんなデータを集めればよいか、あるいはまた、どのように理論的に攻めていけばよいのかといった、研究の進め方が確定されえないはずなのである。
9こうした、研究を進めるに当たっての指針となる仮説やアイデアは、「作業仮説」としばしば呼ばれるが、これなしには、私たちには研究が進められないのだという大切な事実を忘れてはならない。
0この研究テーマの向こうに何かまだ知られていないこととか、
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