1樹木は生命の危険を感じると早く子孫を残さなければと多くの種子をつける。実際、柿の実やどんぐりが豊作になるようにと子どものころ木の幹を思いっきり蹴飛ばした経験がある。
戦後せっせと植えたスギも、林業が儲からなくなって手入れがされなくなった。2とくに間伐がされていないスギ林は、スギ同士の過酷な生存競争でひょろひょろな木となり、ストレスが大きくなっている。こんな環境によって、スギの木も生命の危険を感じ、種子をたくさん残そうと雄花をたくさん付け、花粉を大量に撒き散らしているということなのではないだろうか。
3九州の熊本から九州自動車道を南下すると、八代インターチェンジを過ぎてから道路は山間に分け入っていく。多くのトンネルと急カーブが続き、全長約六キロメートルの肥後トンネルを抜けると、九州で有数の林業地である人吉盆地に入る。4道路の両側は急峻な山地が空を狭め、森林が天に伸びている。しかし、近年、その風景に変化が現れている。何気なく通る多くの人たちは気付くことはないのかもしれないが、職業柄、私にはどうしても気になってしまう。5それは、至るところでかなりの面積にわたり森林が伐採されていることだ。戦後、せっせと先人たちが植林したスギの林がようやく伐採できるまでになって、利用されるようになったという意味では好ましい現象だが、問題なのは、伐採された箇所に植林された形跡がないことだ。
6私たち、森林・林業にかかわるものからすれば、「伐ったら植える」が常識である。しかし、今やこのような常識が常識でなくなってきている。それどころか、これら植林放棄地の状況をみると、森林所有者が森林を土地ごと手放すケースが増えている。7これは、森林を買う木材生産業者が、木材価格の下落に伴い、採算性を維持するためにより大きな面積の森林を買い入れようとする意
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